海岸物語のその後



*ルミさんのキリ番リクエストの 『波音に誘われて』『波の気持ち』
『天使のささやかな贈り物』『ぬくもりに包まれて』
『ぬくもりから目覚めた朝は』『天使の尖ったしっぽ』 の続編です。(^^)





















結局、あの海辺の旅館では
俺達はあと一歩を踏み越えなかった。

あ゛?
今、チッと舌打ちしたヤツ!!
そんなの、俺達の勝手だろ?!

・・・と凄んでみても、あの時
暴走のまま突き進んでいれば・・・と
ソファの上で後悔しまくってる俺が今こうしているわけで・・・


◇◇◇

さかのぼる事、半日前。
話は、海辺の旅館での一室へと舞い戻る。

香を押し倒したまでは良かったが、
ミックのヤツが、いらん事を言って差し向けてきた
仲居さんというお邪魔虫の気配や、
チェックアウトというタイムリミットが、
俺のぶち切れかけた理性の手綱をすんでのところで繋ぎ止めた。

その時、俺は考えたんだ。
このまま堰切って流れ出した気持ちのままに突き進んだとして、
人が来たからってチェックアウトの時間だからって
はいそうですかってあっさり止められるか?ってな。

結論は、否だ。
んなこと、できるわけもねぇ。
止まらない事は、目に見えている。

人が来たとしても俺は、そんな事全然気にならない。
だが、香はそういう訳にもいかないだろう。
しかも、それがトラウマになって
香が『もう嫌!』などと言った日には
俺の未来は、お先真っ暗だ。

それなら、家に帰ってから思いっきり・・・ぐふふ♪

そう瞬時に考えた俺は、3分しか持たないシリアス顔を
必死に取り繕い、『今は、疲れてるだろ?少し眠れよ』
とその場は紳士面して我慢したんだ。

その後のヘビの生殺しの状況に俺自身が百面相して耐えていたのは、
床の間の掛け軸しか知らない。

それでも、アパートに帰れば・・・と思えたから我慢できたんだぜ。
何度スヤスヤと眠る香に、手を伸ばそうとした事か。
それだっていうのにさぁ・・・

◇◇◇

帰りのクーパーの中、俺の顔は完全に壊れていた。
クーパーのネジはミックにより戻されていたが、
俺の顔のネジはどっかに行っちまったらしい。
ま、戻す気もねぇがな。

運転する俺の表情を、赤い顔のままちらちらと伺っている
香の表情には、少々の不安が混じっている。
俗にいう、顔に縦線ってヤツだな。
ほんの先の自分自身の未来を思ってのことだろうが、
心配するな、不安になるようなことはしねぇから。
とりあえず今日は、な。

おっと、これ以上顔崩すと本当に香が逃げちまいそうだ。
俺は慌てて少し顔を戻して、香を安心させる為に
目と口元に少しの笑みをのせた。
これぐらいは、ネジが一本ぐらい飛んでてもできる。
それというのも、これからの時間があればこそ。

◇◇◇


そして、アパートに戻ってきた俺達。
アパートに帰ってきた香は、俺がそのまま甘い雰囲気に
なだれ込もうとするといつもの鈍感さはどこへやら、
慌ただしく依頼中に出来なかった洗濯やら掃除やら
なんだかんだ理由をつけては忙しくアパート内を
動き回っている。

「香ぃ〜」
「へ?!あ、ああ夕飯ね!?ちょっと待ってね!今用意するから!」
呼びかければ、次にやる事を口にしては脱兎のごとく
俺の前からいなくなっちまう。
「ちぇっ・・・」
俺は、リビングのソファで愛読書をねそべりながら
愛でながら少々ふてくされていた。

もしかして、いやもしかしなくてもここに戻ってきたのは
失敗だったか?っていう気持ちが芽を出し、
双葉がぴょこんと出るくらいに俺の中に育ってきていた。
日常に戻ってきちまうより、非日常の旅行先の時の
ほうが踏み越えるには良かったかもしれない。
愛読書も、全然楽しめやしねぇ。

せっかく隣の金髪のお邪魔虫は身の危険を感じたのか
逃亡してるから心おきなく、ってシュチュエーションだって
いうのによぉ〜(涙)

◇◇◇

結局、夕飯までなんだかんだで香に触れる事さえ
ままならなかった。

「ごっそさま」
「はい、お粗末様でした」
「んじゃあ、メシもおいしく食ったわけだし、もうする事ねェよなぁ・・・」
「ちょっ!ちょっと!!タンマっ!ほら、食器片付けなきゃいけないしぃ〜」
「んなのは、後にしようぜ」

一歩前に出る俺と、それに押されるようにように一歩下がる香。
後ろには、壁。
一歩前に出る俺と、壁に阻まれて下がれない香。
縮まる距離。
ほんの少し不安に揺れる瞳が、より俺の狩猟本能を煽ってゆく。
お前も、望んでくれてるんだろ?

プルルルル!!

「あ!電話!!出てくるっ!!」
「え、おい!?」
せっかく縮めた二人の距離に、割って入ってきた電話の呼び出し音に、
するりと俺と壁の間からすり抜けた香は、慌てて受話器に飛びついた。

「ちぇっ・・・」
俺のガマンにも限界ってもんがあるぜ?
よくこんなに長くガマンできたもんだと
自分自身に表彰状送ってやりたい位なんだ。
それなのに、毎度毎度入るお邪魔虫。
俺達、何かに祟られてるのか?

「あ、絵梨子?うん。どうしたの?」
どうやら電話の向こう側の相手は、絵梨子さんらしい。
「え?あたし?え、いつもと変わんないよ!?そう、いつも通りよぉ。あははは」
動揺が声に出まくっている香の態度に、絵梨子さんが気付かない訳がない。
『でも、なんか不自然よ?』っていう絵梨子さんの声が
受話器越しに聞こえてくる。

「いつも通り、変わらない毎日よ!?そうそう・・・で、どうしたの?今日は」
「え?うんうん、そっかぁ。別にいいよ?」
どうやら特に用事って訳ではなく、おしゃべりらしい。
っていうか香、今の状況でそれOKするかぁ?!

◇◇◇

「・・・へぇ、今度ファッションショーの合間に洋服のカタログを作るんだぁ」
『写真だから、シュチュエーションにもこだわりたいのよネェ。
全体にストーリー性も加えて』
「ふぅん。また忙しくなりそうね」
恨めしそうに見る俺に、視線と手で謝るそぶりをしながら、
絵梨子さんとの会話に相槌をする香。
すでに30分は過ぎている。

っていうか、たいした用事じゃなければ、電話なんてすぐ切れよな。
ソファに並んで、アパートに戻ってから一番接近しているにも関わらず、
手を出せないこの状況。
にょきにょきと育った後悔は、ジャックの豆の木よろしく
天高く伸びていっている。

その時、タイトスカートからすんなりと伸びた組んでいた足を
香が何気なく組みかえた。


バキッ
ドドドドド


それは、我慢と理性でできていたダムが決壊した瞬間だった。
元来、俺には似合わない二つの感情だ。
そうだ、俺は新宿の種馬、冴羽リョウだ。
電話してようが、関係ない。
どうせ、絵梨子さんに見えてるわけじゃないじゃねぇか。


そんな感情が心の大半を占めた。
そして、行動に移す。
香のおいしそうにすんなりと伸びた太ももに、手を伸ばす。

「きゃっ!え、あ、ごめん。な、なんでもない!」
『何か、落とした?』
「あ、そ、そうなの。たいした事ないから気にしないで!」

ペチンと叩かれた手をふぅふぅとしながら恨めしげに見上げると、
なんてことするんだ、と目が怒っている香。

そんな事言ったって、お前が悪いんだぜ。
こんなに焦らされて、俺が我慢できるわけねぇだろ。

『ね、だから是非香に最後のページを飾ってほしいのよ』
「そ、それはちょっ!とっ?!」
『そんな事言わずに、ね?香のイメージがぴったりなんだから』
「で、でも・・・。!!・・・やめてよね?!
『?香・・・?』

絵梨子さんと会話しながら、こちらでは無言の攻防が繰り返されていた。
圧倒的有利は、俺。
片手間で、初心者のお前が俺に勝てるわけねぇだろ?諦めろ。

そのうち、香の目が潤んできちまった。
こいつの涙には、正直弱い。
俺も、別に香をいじめたいわけじゃねぇんだ。
『ちょっと香?なにかあった?』
電話の向こうでも、絵梨子さんがこちらの異変に気付いてきている。

という事で、俺は強行手段に出ることにした。
「絵梨子さん、わりぃけど今取り込み中だから」
『へ?冴羽さん?ちょ、ちょっと?』
香から受話器を取り上げ、無粋なお邪魔虫を
をガチャンと断ち切る。

「これでいいだろ?・・・いいんだろ?」
「うん・・・でも、バカ」
「バカで、結構」

日常が、非日常に変わる。


fin


《あとがき》
大変お待たせいたしました。(^^)
りおさんのリクエストは
『『天使の尖ったしっぽ』の続編』でしたv
まず、そのままリョウを暴走させるか、それともとりあえずは思いとどまらせるか、
どっちにしようか悩んでしまいまして・・・こんなにお待たせしてしまって申し訳
なかったです(^^;)
りおさん、季節はずれのお話になってしまいましたが
お気に召していただければ、うれしいのですが(ドキドキ)


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