波の気持ち



*ルミさんのキリ番リクエストの 『波音に誘われて』
続編です。(^^)


「・・・んじゃあまぁ、お前の言う通り休むとしたら、
あそこしかねぇみたいだけど・・・」


目の前にあるのは、原色のネオン。
小さなクーパーの隣の運転席には、
喧嘩しつつも憎からぬ思っているパートナー。


顔がカッと赤くなったのが、自分でもわかった。

あたしはショート寸前の思考回路をフル回転させながら今
置かれてる状況を必死に考えていた。

いつもリョウって何考えてるかわからないけど、
今日はさらに輪をかけてわからない。

このところ立て続けの依頼で疲れてるはずなのに、海だし。

楽しかったから、いいけど。
それにその・・・・正直デートみたいで嬉しかった///

でも、リョウはやっぱり疲れてたみたいで
ずっと寝てたのよね。

海に用があったからってわけでもなかったみたいだし。
全然理由がわからない。

まぁ、リョウの行動がわからないのはいつもの事だけど・・・
ってそ、そうじゃなくて、今のセリフはななんなわけ?
他の依頼人とかに言うんだったらわかるけど、あたしに?
そりゃあ最近はあたしに優しい態度とか表情とか
向けてくれる事もあるけど、全然慣れない。

百面相している間も、車はカメの歩みでしか進まない。

二人の間にあるのは、緊張感を含んだいつもと違う空気。
酸欠になりそう・・・


「ね、ねぇっ!あそこは?!ね?」

あたしは原色のネオンがある度に
流れるいつもと違う車内の空気の濃度に
耐えられなくなって、道沿いにやっと見つけた看板を
指差してひっくり返った大きな声をあげた。

看板には『旅館』の文字。
旅館だったら、二部屋とればいいし。

この狭いクーパー内の空気には、もう耐えられない。
口から心臓出ちゃいそう。

リョウも、心持ちほっとしたようにウィンカーを出して
旅館へと左折した。


「え!?一部屋しか空いてないんですか!?」
「申し訳ありませんねぇ。」
願いは、あっさり砕かれた。

どうしよう・・・
「しゃーねぇじゃん、このまま帰ろうぜ。大丈夫だって。
それ程疲れてねぇから」
「でも・・・」
リョウはどう考えても、疲れてるし・・・

「ここから先、道はもっと混んでるみたいですよ。
お泊りになって朝帰られたほうが、
スムーズに都内まで帰れると思いますよ」
そんな女将さんの話があったから余計に悩む。

でも、でも、でも・・・・∞

「ほら大丈夫だから、さっさと帰るぞ!」
まだ悩むあたしを引張り気味にクーパーに押し込み、
リョウがエンジンをかけると・・・

クシュクシュクシュ・・・
しーん。。。

あれ?
「・・・香ちゃん、エンジン壊れたみたい」
「え、えぇ〜!!??」

そして、あたし達は旅館へ逆戻りした・・・




どうしよう〜!!
通された部屋は、いたってシンプルな旅館らしい和室。

「それにしても、今時珍しい奥ゆかしいカップルですねv」
「そ、そんなっ!あたし達は別にカップルってわけじゃっ!?」
「そうそう、仕事上のパートナーってヤツ?」
「またまたぁ、ご冗談を。顔に書いてありますよ」

先ほど案内してくれた仲居さんの言葉に、
余計意識してしまう。

部屋に入ってから、まともにリョウのことが
見れない。

「なぁ、おい・・・いいかげんそれ、しまえよ」
「へっ!?」
「ここはアパートじゃねェから、床が抜けちまうって・・・」

目の前には、先ほどから緊張で無意識だったあたしが
いつの間にか並べた大小とりどりのハンマーの山。

「俺が、お前のこと襲うわけねぇだろ?」
「あ、はははは。そ、そうよねっ!しまうわ、しまう!」

そう言いながらも、やっぱり好きな人に言われちゃうと
正直ヘこむ。
あたしってやっぱり魅力ないのかな・・・?

「それとも・・・こっちほうがお好み、か?」
「えっ・・・!!」

急に背後に声が近づいたと思ったら、身体が反転して
天井と、リョウの顔を見上げていた。
顔の横の、イグサの香りが鼻につく。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。
止まったかのような、時。

組み敷かれてることを認識した途端、
心臓が耳の横に移動してきたみたい。
しかも、隣には整えられた布団。

部屋の蛍光灯の逆光で、リョウの顔が見えない。
掴みきれないリョウの態度が、気持ちが、わからない。

いつも、二人の距離が縮まったと思ったら一気に突き放される。
その繰り返し。

体を引いたはずなのに、予想に反して寄せる。
飲み込まれるかと思うと、すっと引いてしまう。

あと一歩あたしが踏み出したら、一気にさらってくれるの?
それとも、踏み出した足でさえよけて引いていってしまうの?
このままでも、一気にさらってくれる?

瞳の奥に、答えを探す。
このままだと息が止まりそうだった。


リョウの顔が、少しずつ近づいてくる。


踏み出す勇気はないから、
このままさらってくれる事を望みながら、
あたしもゆっくりと目を閉じていった。


ゴトッ!
「え!?な、なに?」
大きな音がして、急に身体の上から重みが消えた。

「・・・なんで、お前がいんだ・・・?」
「ハ、ハハハ。ハロー、二人共」
そして、慌てて跳ね起きたあたしが見たのは、
ジト目のリョウと、その視線の先でふすまと共に
倒れこんでいるミックの姿だった。

「な、な、な、な!?!?」
「あ、カオリ。今日も素敵だねv」
「誤魔化すな」
「いやぁ〜。仕事でね。奇遇だなぁ〜。
それにしても、お邪魔だったみたいだね。すまないね」
「//////」

ついさっきまでのあたしの気持ちまで見透かれたみたいで、
ミックのウィンクした表情に顔に血が昇る。

「・・・おい、ミック飲み行くぞ」
「え?でもカオリは・・・」
「いいから付き合え。香、ミックと飲んでくる。
ついでにミックのとこ泊まるから、お前はここ使え。ほら、いくぞ!」
「じゃ、じゃあカオリ、また明日ね。良い夢を」

「お、おやすみなさい・・・」
あたしを見ずに、リョウはミックを引きづるように
部屋を出て行った。

先ほどの近づいてきたリョウの影が、まだ
目の前にちらついている。

ほっとしたような・・・ちょっとがっかりしたような・・・
リョウ、は?


波の音が耳から離れなくて、
今日は寝られそうになかった。



fin

甘々路線を目指したはずなのに、
少々切ない路線に入り込んだようで・・・(^^;)
さて、なぜミックがいるかというと・・・っと、その辺りは
近日(と書いて未定と読む(爆))公開予定のミックレポートにでも
しようかな♪


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