ぬくもりから目覚めた朝は



*ルミさんのキリ番リクエストの 『波音に誘われて』『波の気持ち』
『天使のささやかな贈り物』『ぬくもりに包まれて』の続編です。(^^)


柔らかなぬくもりが頬に伝わってくる。
自然、その柔らかさを堪能するように顔をうずめた。

そして、腕には力を入れたら折れてしまうような
華奢な感触。
瞼を閉じていても、顔に当たる明るい光が
朝であることを告げている。

俺は、ゆっくりと浮上していく意識の中、
今の状況を確認していた。

昨日、旅館に泊まる事になったのは覚えている。
んで、ミックの奴に引っ掻き回されて、
また香のいる部屋へと飛び込んで・・・
と、そこまで思い返した時、俺は昨日の失態
を思い出した。

左側頭部の鈍い痛みが、昨日の出来事が
事実だと告げている。
情けなさに、一気に眠気は霧散した。
そして、深い眠りに落ちる前に聞こえた、
子守唄のような香の呟きと共に
やっと今の状況に思いが至る。


・・・


じゃあ、この抱き心地の良い感触はなんだ?



そろそろと目を開けると、白地に藍色の
桔梗があしらわれた布が、目に飛び込んできた。
し、しかもその布の合わせからは弛緩した白い足。

さらに視線をあげると、腕を回していた
華奢なウェストには帯が申し訳程度に締められており、
合わせが緩んだ胸元からは白いふくよかなラインから
谷間へと朝日の光により陰影が創り出されていた。


香・・・


頭の中で、何かがブチブチと切れる音がした。
おそらくこの数年鍛え上げてきた筈の、理性という手綱だろう。

俺は、それでも蜘蛛の糸程残っていた理性により
腕を香の後頭部に回すと、勢いのまま押し倒して唇をふさいだ。

「んんんっ!?」
訳がわからないと体の下でもがく肢体までも、
今の俺にとっては香しいスパイスになる。

ゆっくりと上半身を香から離し、押し倒した香と視線を合わせると、
戸惑った瞳が見上げていた。

「リ、リョウ?」
真っ赤になりながらも、一生懸命今の状況を把握しようと
して不安気に揺れる瞳。

このまま、いつものようにおちゃらけてしまおうか。
まだ、後戻りできるぞ。
心の底で、弱気な俺が呟いている。

だが、視覚から入ってくる情報は
そんなあがきは無駄だというように
刺激的なものばかりなだれ込んでくる。


もがいたせいで、より一層衣服の役割を果たさなくなった
浴衣から覗く、すらりとした白い手足。
驚きのせいで喘ぐような浅い呼吸を繰り返している、
果実のように瑞々しい唇。
守りたいと想い続けている、愛しい女。

男で、これを目の前にして耐えられるヤツがいたら、
お目にかかりたいものだ。

そもそも、香が悪い。
こんな状況で無防備に膝枕したまま寝ちまうなんて、
据え膳でなくてなんだっていうんだ。

「香、お前無防備すぎだって」
すでにノックアウト状態の俺は、
そう呟くと再び抱きしめた。

「だ、だって、リョウはあたしにはもっこりしないって
言ってたじゃない!」
なんでこの瞬間にも、それ言うかねぇ?
「・・・そりゃ、昔のことだろ?」
「そうだけど・・・リョウの気持ち、わからないよ・・・」

俺の腕の中で、身体にじかに聞こえてくる香の呟く
ようなくぐもった声に切なさがにじんで、
俺の中にもそれは雫となって滴り落ちた。


この状況でさえ、不安にさせてしまう今までの
罪滅ぼしとばかり、耳元で囁いた。
「わからせてやるよ。今これから、たっぷり、な」

朝の慌ただしさが、襖を通して伝わってくる。
チェックアウトには、まだ時間がある。


「んっ!」
軽く耳に唇を寄せると、肩を震わす香の表情に、吐息に、
酔わされていく。


もう、周りの音も聞こえない。



FIN


前回のへたれ具合がかわいそうだったので、
リョウにもたまにはおいしい思いをしてもらおうと
思いまして。
飴と鞭の飴ですね(笑)


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