「だいたいね〜!!僚の奴はなに考えてんだかほんっっと
わかんないのよっ!!!」



ダンッッッ!!!



テーブルに叩きつけられたグラスがその中身のビールを噴出して
あたりに飛び散る。


「ま、まぁまぁ香さん落ち着いて・・・」


「少し飲みすぎなんじゃありません??」


「私はいたって酔っ払ってなんていません!!」



はぁ・・・なんでこんなことに・・・



美樹とかすみは合わせるでもなく同時にため息をしつつ、
顔を見合わせ苦笑いを浮かべていた。



≪無理な相談 〜post-party party〜≫





二次会と称して、冴羽アパートで飲みなおすことになった女3人。
美樹とかすみはなんとしてもさっきの続きを香から聞き出したかった。
そのため、再び飲みはじめると、すぐにそれとなく彼女のパートナーの
話を持っていくようにした。
そこまでは良かったのだが・・・



香は普段一人で待っている時間に同姓の、それも同年代の人間が
いることに安心したのか、堰を切ったようにいつもこの時間に
一人で抱えている相棒への愚痴や不満をまくし立て始めた。
それは止まることを知らず、現在に至ってはパートナーの食の
嗜好まで話が及んでいる。



美樹さ〜ん・・・

かすみが美樹に目で訴える。



これはもう無理ね。しばらくはこのままだわ。

美樹もかすみに目だけで返す。




はぁ〜。



二人は再び小さく息を吐いた。
するとそこに一際大きいため息がプラスされる。


「はぁー・・・今日だって。今日だってね、本当はあんまり
行ってほしくなかった。でも今回ばかりは正当な理由もあるわけだし。
そんなこと・・・言えるわけないじゃない」



先程までとは打って変わりポツリと小さな声で呟く香に、二人は
はっとして香の顔を覗きこむ。


「そんなことないですよ!!」


「そうよ、香さん。今日の件だって冴羽さんが勝手に決めてきたこと
でしょう?香さんにはちゃんと言う権利はあるはずよ。それに・・・」


「?」


「今だったら、香さんがそう言えば冴羽さんもちゃんと話聞いてくれると
思うけどな。あなたたちは前とはもう違うはずよ。
お互いの気持ちは分かり合ってるんでしょ?」


「そ、うなんだけど、さ。僚のナンパや夜遊びはアイツの
ライフワークっていうか。あたしがそれを嫌だからって、アイツから
それをとりあげて、何もかも縛っちゃうのは駄目だと思うの。
もともと僚は何かに縛られて生きていけるような人じゃないから。
それにそんなあたしのちっぽけな醜い・・・独占、欲・・で、
縛ってしまって窮屈そうにしている僚なんて、あたしが見たくないもの」


寂しそうに顔を俯き話す香を見て、美樹は正直驚いていた。


香は常に周りのことを気遣い、自分のことや考えをあとまわしにしてしまう
きらいがある。そんな香が、今日はやけに素直に自分の奥に隠している
感情を表に出してくれている。



たまには女同士の飲み会ってのも開いて・・・やっぱり正解だったわね。



美樹は微笑みながら香に優しく語りかけた。


「・・・冴羽さんは確かに自由な人よ。自由で、掴みどころの無い人。
でもね、香さん。そんな冴羽さんが、唯一執着しているのが、
あなただというのも紛れも無い事実よ。実際、彼は香さんを何度も
手放そうとしたけどできなかった。なぜかしら?」



「・・・それは、あたしが図々しく僚の傍に居座り続けたからで、」


「そうかしら?もしそれだけだったら、冴羽さんならいくらでもあなたから
逃げることはできたはずよ。何せ彼は自由で、どこまでも掴みどころのない
人だから。冴羽さんは、自分の意思で、あなたを傍に置いたのよ。ううん、
誰よりも傍にいて欲しいって。香さんを」


「美樹さん・・・」


「だから、今度は言ってやんなさい。『あんまりあたしを一人にしておいたら、
どっか飛んでっちゃうからね』ってv」



そういって美樹は香にウインクを一つよこす。
さっきまで俯いたままだった香の顔に、笑顔が咲く。


「ありがとう。今度、言ってみようかな・・」


どちらからともなく香と美樹は笑いあった。






「冴羽さんも、もっと危機感ってのを持たなきゃだめですよね〜」




それまで黙って二人の遣り取りを聞いていたかすみがうんうんと頷きながら
話し始める。


「危機感?」


香がたまらず聞き返すと、


「ほら、香さんって、綺麗だし。もてるじゃないですか?」


あまりに自分とかけ離れている言葉が飛び出し、香はしばし呆然とする。
しかし美樹はかすみの発言に動じることもなく、加えて言い放つ。


「確かにねぇ。冴羽さんはもっときちんと香さんのこと捕まえておかないと
駄目かしらね」


「あ、あの、さっきから、ふたりとも何かおかしくありません?
何であたしがき、綺麗でもてるなんてことに・・・」


その香の発言にかすみがはぁ〜っとわざとらしく息を吐く。


「香さん?ウチの喫茶店でも、常連の香さん目当てで来るお客さん、
少なくないんですよ」


「そうそう。大体後から冴羽さんが来て二人で痴話喧嘩するから、
大概の人はそれ見てあきらめちゃうけど」




「え、ええ・・・!?///」



さっきから俄かに信じられない美樹とかすみの話が続き、香はただ
目を白黒させるしかなかった。



「冴羽さんって、香さんが自分の傍にいてくれるってことの有難み
わかってるのかしら!?」


「確かに!!そうですよね〜!いくらなんでも香さんの前で美樹さんや
私にちょっかいだすなんて、女心をわかっちゃいないですよ」


そうよそうよと騒ぎ立てる二人。


「い、いやあのね美樹さん、かすみちゃん・・・」


「だいたい!!香さんが甘すぎるのよ!冴羽僚に!!」


「その通りです!!だから冴羽さんだって今日みたいにふらふらと・・・」


冴羽僚という男についてあれこれ言い出す美樹とかすみ。
その横で二人の顔を見ながらおろおろする香。
こうなればまるでさっきまでと正反対の構図になってしまっている。




「香さん!!今日はとことん飲みましょう!!あんなもっこり男なんて
忘れて!!」


「そうね!!飲みましょう、香さん!!」


「そ、そうね、ははは・・・(あんなもっこり男って。他の人に言われると
何か複雑ね)」


かんぱーーい!!


そうして再び勢いを立ててグラスがカチリと音を鳴らした。

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