トリガー3〜廃墟〜



*Web拍手に2007年8月12日にアップしたミックレポ及び
  トリガー〜夏の海〜トリガー2〜夏の海〜の続編ですvv
 夏の海とはちょっと雰囲気違います。



バラードが、クーパー車内に
そして開けた窓から海岸線の道端へとゆったりと流れてゆく。

ついさっきまで、助手席では香が賑やかに喋っていたが、
今は打って変わって静かだ。
  
くったりと脱力している体が、
夏の海を満喫した事を体現している。
顔を覗き込まなくても、穏やかな寝息から
口元には笑みが浮かんでいるのがわかる。

車の流れも、不快な程滞っていない。
空も、海も、夕闇に包まれる
準備を始めている境目の時間帯。
車内に流れ込んでくる潮の薫りにも、
夜の香りが微かに混じってきている。

そんな海沿いを、緩やかに走って帰路につく車達の中、
浮きまくっている黒塗りの車が一台。
  
さっきからつけてきている。
十中八九、俺だろうな。
昼間の海でも、バシバシと熱い視線感じたし。
俺は、男の熱い視線なんか願い下げだっつうの。

バブル期に作られて今は廃墟となっているホテルが確か
この辺だったなと一人ごちると、俺は車をゆっくりと
Uターンさせた。
後ろに連なっていたミックと海坊主の車に軽く手をあげ、
しばしの別れを告げる。

んじゃまぁ、軽〜く遊んでやりますか。
ついてくる黒塗りの車をバックミラーで確認しながら、
俺の中は戦闘モードへと切り替わってゆく。
  
せめて、隣の眠り姫が目覚める前にカタつけちまわねぇとな。
ったく、1日位のんびり遊ばせてくれよなぁ。
真面目に働くってのは俺のスタイルに反するし、
ごめん被りたいんだがなぁ。
  
んなこと香の前で言おうものなら
速攻ハンマーもののセリフを呟きながら、
俺はスピードを少しあげながら目的地へとクーパーを走らせた。

◇◇◇

目を開けると、何時も見慣れているクーパー車内の天井が
視界に入った。

確か、みんなと海に行って帰り道だった筈・・・
あ!あたし、帰りの車で寝ちゃったんだ!

ガバッとシートから身体を起こし、
運転席の方に視線を向けるが、そこには誰もいない。
  
確か、海からそれぞれの車に乗り込み、帰り道にどこか寄って
ご飯を食べる事になっていた筈・・・
眠りにつく前までの事をゆっくりと思い出しながら、周囲を見回す。
  
車外は、どうみてもレストランの駐車場っていう雰囲気ではない。
もう何年も使用されずに放置され、荒れてしまった建物だという事が
薄暗いながらも伺える。

リョウ・・・?
隣にいないパートナーが、一体何処に行ってしまったかと
ふと不安を覚えたが、自分に声を掛けずに出て行ったという事は
問題ないからだとすぐに浮かんだ不安を打ち消した。

運転席のシートに触れた手に、リョウのかすかな温もりを感じ、
さして時間がたっていない事にさらに勇気づけられる。

車外に出るのは・・・まずいよね。
不用意に出て、リョウの足手まといになってしまいたくはない。
コルトローマンの所在を確認し、弾がこめられているのを確認して
大きく深呼吸をした。
こんな時こそ、落ち着かないと。
 
もうしばらく、周囲の状況を把握してから動こう。
そう決めて、外に視線を向けた時だった。

建物内に、切り裂くように反響する複数の銃声。
鳥肌がたち、身体は硬直する。

リョウ?!
頭の中を、その銃声が意味する様々なシュチュエーションが、
駆け抜ける。
  
広げられた可能性のカードを引けず、
視線だけがせわしく車外にパートナーの姿を探す。
クーパーから飛び出したい衝動を、かろうじて押しとどめる。

その時、柱の影から人が現れた。
暗すぎて、ゆっくりと歩いてくる影しか見えない。
コルトローマンに手をかけながら、身構えた。
冷たい汗が、背中を伝う。

天井が崩れている部分から差し込んできている外の光が、
スポットライトのように照らしている部分に人影が差し掛かった。

「・・・リョウ」
照らされたその姿を見て、一気に身体が脱力する。
そして、クーパーから飛び出し、駆け寄った。

「あっらー香ちゃん・・・お目覚め?」
駆け寄ったあたしを、バツが悪そうにリョウが出迎えた。
異常にヘラヘラしてるのと目が少し泳ぐのを見て、
あたしは視線を下げた。

隠される、左手。
怪我、したんだ・・・
あたしは何も言わずにクーパーのトランクを開けた。
そこには、救急箱が仕舞われている。

「・・・手、出して」
「んな、大げさな。だいじょーぶだって」
「いいから出して!」
「は、はいぃ〜」
さらにごまかそうとするリョウに、少し声を荒げる。
苛立ちが、心の底から気泡のようにふつふつと湧き上がってくる。

もくもくとリョウの左手の傷を消毒し、包帯を
巻いてゆく。
確かに、傷はたいしたことなかった。
それでも、もしかするともっと傷つく状態に
陥ってしまったかもしれなかったのだ。

もう、今日海にみんなで行った事が遠い記憶のような気がしてくる。

無事に帰ってきてくれた事だけで嬉しいはずなのに、
苛立ちは消えない。
  
理由など、前々からわかっている。  
そう、この苛立ちはリョウのせいじゃない。
傷を隠すように気を遣われてしまうような
自分自身への苛立ち。
  
「あ、あの〜香ちゃん・・・?」
手当てが終わっているのに、手を掴んだまま
黙っているあたしに耐え切れず、リョウが恐る恐る
声をかけてきた。 

それが、きっかけだった。
「・・・それでも、無事で良かった。リョウが無事で」
苛立ちよりも無事であった事への嬉しさが勝り、
そのまま、抱きついた。
「!! ☆%&◇* お、おい!!」

抱きついたあたしの腕の中で、リョウが上ずった声をあげる。
恥ずかしいと思わなかった。
抱きしめて、リョウの存在をただただ確認したかった。


・・・
  
  
//////
   
恥ずかしくないはずだった。
でも、そのうちにあたしの背後でわたわたと動いていた
腕がおずおずとあたしの肩に回され、
すっぽりとリョウの腕の中に収まってしまったら
急に恥ずかしくなってきてしまった。
  
「・・・えっと、あの、リョウ・・・」
小さく身じろぐと、頭の上でふっと笑う声が聞こえ
ゆっくりと腕を緩めてくれた。
  
でも、視線を合わせるのが気恥ずかしくて
下を向いたまま離れる。

「///ごめん。安心して、つい・・・」
「手当て、サンキューな」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれてやっと落としていた
視線を上げることができた。
 
視線の先には、クーパーに乗り込むリョウの後ろ姿。
表情は、見えない。
  
でも、見えなくて良かったかもしれない。
あたしも絶対真っ赤な顔してるから。

「おい、早く行くぞ。ミックからメール来てる。
はやく来いってな」
「うん」

「・・・それとも、せっかくの人気のないとこだし、
ミックのご期待に沿ってみるか?」
「ミックの期待って・・・?」
リョウに差し出された携帯を覗き、あたしは顔が
ボンっと再び赤くなった。

ミックからのメールには、今みんなが待っている
レストランの場所と共に・・・
『遅いけど、まさかカオリに手を出してないだろうなっ!?
人気のない所に連れ込んでんじゃねぇーぞ!
またメールするからな!』
とのメッセージが。

こ、このメッセージのご期待に沿うって、ど、どういうこと!?
クーパー内の温度が、1,2度上がった。

fin



えっと、10月にもなって夏のお話に最後までお付き合い
下さいまして、ありがとうございました(ぺこり)
今回は、カオリンにトリガー引いてもらおうと思いまして(*^^*)
ちょっとでも楽しんでもらえたらうれしいです♪


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