トリガー2〜夏の海〜



*Web拍手に2007年8月12日にアップしたミックレポ及び
トリガー〜夏の海〜の続編ですvv


なおも暴れ続ける香を、岩場の方へ
強引に引っ張ってゆく。

「痛いじゃない!
あたしなんて日焼け止め必要ないんでしょ?!」
そう言って、香が怒り含んだ強い視線でにらんでくる。

振り払おうとする手首をさらに強く握り、
問答無用で後ろを向かせてうっすらと赤くなっている肌に、
濡らしたタオルを押し付けた。

「ひゃっ!」
「このまま意地張り続けて焼くと後でつらいぞ」
「!! あんたがっ!」
臨戦体制で再びこちらを振り向こうとする香の肩を、
日焼けに響かない程度に抑えつける。

「・・・さっきは言い過ぎた」
「・・・」
「悪かったって」
「・・・うん・・・あたしも意地張ってごめん、ね?」
「おう」

視線を合わせなければ、
お互いこれ位は素直になれる。

今頃耳がダンボになっているであろう
あのおせっかいなヤツらさえいなければ、なおの事。

「日焼け止め、背中に塗ってやるからじっとしてろよ」
「うん」
手のひらで、香の首筋から背中にかけて
日焼け止めを押さえるように塗ってゆく。
キメ細やかな肌に触れていると、
熱中症になっちまいそうだ。
そのまま前後不覚に陥って、暑さのせいにして
抱きしめてしまおうか?

首から背中、二の腕と日焼け止めを塗り終え、
足はどうするかと少々躊躇する。
岩場の為、うつ伏せになれる場所もない。
跪く、か?
少し想像して、そのあまりのらしくなさに、
自分で苦笑した。

「何?」
そんな俺の苦笑に気が付いて香が振り返ろうとした時、
岩陰に隠れながら近づいてくるヤツが一人。

速攻、手に持っている日焼け止めを投げつける。
ポコッ
「Ouch!」
「・・・なんか、用か?」
「ハ、ハーイ、お二人さん」
ヘラヘラとしながら現れたのは、
エンジェルを名に持つ男。


「自分で手の届くとこは後自分で塗っとけよ」
「う、うん。ありがと」
「んじゃリョウちゃんお役御免だしぃ、
ナンパでもいってこよぉっと。もっこりちゃん待っててね〜♪」
「あ、コラっ」

からかわれるのわかっててその場にいられるかってぇの。
三十六計逃げるにしかずってな。

あっけなく幕が引かれた甘い時間に
少々後ろ髪ひかかれながらも、
俺は、そそくさとその場を逃げ出した。

◇◇◇


「全く、もうっ」
カオリは、口では呆れた声を出しながらも
少し嬉しそうだ。
日焼け止めを塗ってもらった位の
ささやかな事で喜んでいるカオリの、なんと健気な事。
俺は目頭が熱くなるのを、感じた。

そして、カオリにもっと夏の海での思い出を
プレゼントする為の舞台へと導く為、口を開いた。
もちろん、クライアントへのお土産も多ければ
多いほどいいからね。

「カオリ、向こうに日焼け止め塗りやすいように
チェアーを用意したから、おいでよ」
「ありがとう、ミック」
そう言ってにっこりと微笑むカオリは、
やっぱりキュートだ。

「さあ、ここだよ。ちょっとスペースがなくて
みんなと離れてるてて悪いけど」
俺は、本当に申し訳なさそうに用意した
パラソルとチェアーへと案内した。
「わざわざありがとう。塗り終わったら
みんなと合流するから」

「なんだったら、残りは俺が・・・」
「ミック(怒)」
「いや、、その、ジョークだよ、ジョーク!!
ハハハ・・・じゃ、ごゆっくり〜!」
カオリの無意識の誘惑に、ついつい顔を崩しながら近づいた俺は、
ミニハンマーをチラつかされて後ずさりながら慌てて退散した。

それでも、仕事はしっかりしたさ。
Don't worry!!
舞台は、整った。
そして、次の準備とばかりに
元相棒の元へと向かう。

「よう、リョウ。成果はどうだ?」
「うるせぇ。わかってて聞くな」
相も変わらず身の入っていないナンパを繰り返している
リョウは、ちょうど女の子から平手を
受けたところだった。

「おう、おう、痛そうだなぁ。手形くっきり」
「うっせぇ!ナンパの邪魔だ」
さっき邪魔されたせいか、
からかわれるのが嫌なのか、リョウはすこぶる不機嫌だ。

ま、その方が計画を進めやすい。
「カオリ、日焼け止め塗ってもらって
うれしそうだったぞ〜」
「・・・」
「おお!自分で日焼け止め
塗り始めたぞぉ〜。
水着姿のカオリも、色っぽいなぁ♪」

ピクリ
「・・・」
あえてカオリを見ないようにしているリョウに、
これ見よがしに実況中継をしてやる。

カオリは、しばらくあそこから動かないはずだ。
なぜなら、俺のカバンがあそこにあるから♪
持って歩いてくればいい事だが、
濡れては困りそうなカバンだから
しばらくは無理して離れることもないだろう。
足止めはバッチリ。

カズエやミキやファルコンには、
近づかないように裏で手を回している。

ハタから見れば、カオリ一人で
海に来ているように仕立てる事に
成功していた。

そこへ、タイミングよく現れた、
カオリを狙うナンパ男。
そうそう、これを待っていた。

「おやぁ、カオリのところに誰か来たぞ。ナンパかぁ?」
さらに大きく声を張り上げる。
ピクリピクリ
反応する、リョウの肩。

「カオリ、嫌がってるなぁ。ああ!肩に手をかけてる!」
ピクリピクリピクリ
ふむ、背中だけでもリョウの感情が丸わかり。
これは、なかなか面白い現象だ。
しかし、さらにカオリの実況中継をしようと
そちらに視線を向けると、ナンパ男は調子に乗って
強引にカオリの腰を引き寄せて連れ出そうとしている所だった。

どうやら、リョウの反応実験に時間をかけすぎてしまったようだ。
今回の計画は、カオリに不愉快な思いをさせるのが
目的ではない。断じて、ない。

それに、カオリお得意のハンマーが出てしまっても
計画はおじゃんだ。

「おい!リョウ・・・あら?」
カオリの危険を知らせようと横を向くと、
つい先刻までそこにいたリョウはすでにいなかった。

「見てなくても、わかるってか・・・」
リョウの行き先はもちろん、カオリの元。

すでにナンパ男から取り返したカオリの腰に、
しっかりと腕が回っているのが遠めでもはっきりわかる。

ま、リョウが行ったんだったらあんな軟弱男は、
もう退散しか道はない。

案の定すぐにすごすごと尻尾を巻いて逃げ出すナンパ男。

そして、リョウはカオリが買ってきたイチゴのカキ氷の
スプーンを差し出され、渋々という雰囲気を醸し出しながらも
仲良く分け合って食べている。

これで、レポート記載内容は大漁だ。
計画がうまくいったのに、なぜだか寂しく
感じるのはなぜだろう。

さて、俺も夏の思い出作りする為に
カズエの元へ行こうかな。


夏の海には、たくさんのトリガーが転がっている。
だから、楽しいのかもしれないね。
SEE YOU AGAIN!



fin

さて、今回はちょっとミックレポもからめてみました。
リョウもあまりにいじめすぎたかなぁと
思ったので、少し甘い時間を堪能させてみました(笑)


Back