トリガー〜夏の海〜



*Web拍手に2007年8月12日にアップしたミックレポの続編ですvv


照りつける太陽、輝く海。
そして、色とりどりのパラソルと人が
溢れかえる砂浜。
それは、まさに日本の海岸の夏の風景。
身体にまとわりついてくる空気は、
動きを妨げる程に重い。

「ほら、リョウもパラソル広げるの手伝って!」
やっと渋滞の中海にたどり着き、クーパーを降りて
まず一服と煙草に手を伸ばしかけた俺に、
香の声がかかる。

「たりぃなぁ・・」
乗り気ではない俺が呟いた言葉は、
誰かに聞き咎められる事もなく波間に紛れてゆく。

ミックの達者な言葉に乗せられ、嵌められ、
海坊主、美樹ちゃん、そしてミック、かずえちゃん、
そして俺らという思いっきり目立つメンバーで
海水浴に来るはめになった経緯に、
テンションは低めだ。

確かに、今年は絵梨子さんから新作水着を
プレゼントされて海水浴に行きたがっていた香を、
海やらプールにまだ連れて行っていない。
一度位は連れて行ってやろうという気持ちも、
密かに持っていた。

だが!
このメンバーで来るというのはいただけない。
目立っちまうし、そして何よりも、
こいつらの俺を見る時の含みを持った
ニヤニヤ笑いが、気に食わん!

「パラソルはファルコンに任せて、俺らは
荷物を運んじまおうぜ」
後は俺達がやるからと、女性陣を早々に
海の家に着替えにやらせたミックが、
横でまめまめしく動き回っている。
それが、余計腹が立つ。

「本当に、あやめちゃん来んだろうな」
「あ〜、夕方には来るらしいぜ。だから、安心しろって」
最後の抵抗とばかりにうめいた言葉も、
ミックの受け答えの後ろに、
『隠れ蓑の理由はバッチリだから安心しろ』と
くっ付いてる様で、イライラは募るばかりだ。


「おまたせ〜!」
準備も着替えもさっさと済まし、
パラソルの下に男3人で間抜けにも
腰を下ろしていると、
背後から香の明るい声。

「ぶっ!?」
何気なさを装って振り返り、俺は飲み掛けていた
コーラを噴出しかけた。

ビキニだとは聞いてねぇぞぉ!!
俺は、心の中で悲鳴をあげた。
黒のビキニに、ワンポイントにあしらわれた白いレース。

そこからすらりと伸びた手足が、
格好良さと可愛らしさの程良いバランスを保っている。

し、しかも香は何も気にせず、手を振りながら
こちらに走り寄ってくる。
そんなに、勢いよく走ってくんじゃねぇ!!
周囲の男共の無遠慮な視線を、集めちまう。
かくゆう俺も、揺れている胸元から、目が離せなくなった
一人な訳で・・・

ブルブルブルッ!!!
い、いかん。顔が緩みかけたのを自覚した俺は、
犬よろしく大きくかぶりを振り、
慌ててポーカーフェイスの仮面を被り直した。

「カオリ、やっぱりキュートだよなぁ〜」
「そっか〜?俺は、かずえちゃんと美樹ちゃんの水着
姿のほうがいいけどなっ!」
ミック、そのニヤニヤ笑い止めろっての!!!
くそ、だからこいつらと来るの嫌だったんだ。

「ファルコン、パラソルありがと♪」
「////・・・ああ」
「カズエ、水着姿も素敵だね」
「ありがとう、ミック」
隣では、甘〜い雰囲気が繰り広げられている。
けっ、まったくやってらんねぇぜ。

それでなくても、香を直視できないでいる俺には
居場所がない。
そして、ナンパでも行ってくっかなぁと立ち上がろうとすると、
始まったお決まりの会話。

「カズエ、日焼けしないように
俺がたぁ〜ぷり日焼け止め塗ってあげるからねぇ♪」
「じゃ、お願いね」
「日焼け止め、塗ってくれる?背中は届かないの」
「////・・・ああ」

ミックはともかく、おいおい、タコまでかよっ!?
茹でダコになりながらも、美樹ちゃんの背中に
握りつぶしそうな小さな日焼け止めの容器から
その図体からは想像もつかない程優しく日焼け止めを
塗っていく様は、あごが外れる位あんぐりするのに
十分すぎる状況だ。

横には、少々居心地悪そうな香。
そ、そうだよなぁ、このシュチュエーションじゃ
香の背中に日焼け止め塗るのは・・・
い、いかん、いかん!
止まれ、妄想。戻れ、顔。

無理、無理!!こいつらの前でなんて、無理!
んな上目遣いで、俺を見んなって。
理性が、そして表情が、崩れない保障できそうもねぇんだから。

「リョウ、カオリに塗ってやれよ」
ミックが、何も言い出さない香をサポートするように口を出す。
だ〜か〜ら〜、んなにみんなニヤニヤ顔で俺を見んな!!
「っせえな!誰がこんな男女!なんで俺が
塗ってやらにゃあいけねぇんだ!!こいつの丈夫な皮膚には
必要ねぇだろ、日焼け止めなんて」
煽られて、つい口から飛び出た思ってもいない悪態。

い、いかん。
ハタと気がつき、手入れを怠ったロボットよろしく
ギシギシと振り返れば、そこには想像通り
怒りにフルフルと震える香。
「・・・そ、そうよねぇ、あたしなんて
日焼け止め必要ないわよねぇ、男女だし!!
リョウの馬鹿!!」

ドボコーーーーーーンッ!!!
見事に砂浜に埋まった200トンハンマー。
「あはあは、あは・・・」
そして、その下に見えなくなるほど埋まった俺。
くそ〜。
だから、このメンバーで海なんて嫌だったんだ。


5分経過・・・
まだ香は意地を張ったまま、日焼け止めも塗らずに
ビーチボールに興じている。
どんなに美樹ちゃんとかずえちゃんが塗ってあげると
言おうとも、怒り心頭の香は首を縦に振らなかった。

おいおい、せっかくの白い肌が焼けちまうって。
首筋の後ろが、うっすらと赤くなっているのが
見える。
やばいって、それ以上焼いたらシャワー辛いぞ。

「リョウ、お前いい加減謝れって。あのままじゃカオリの
せっかくのすべすべの肌が、ヤケドしちまうぜ」
「うっせぇよ・・・」
お前に言われなくても、わかってんだよ。
埋まった砂から這い出した後、
ナンパをしている振りもしながらも気にし続けていた。

しかも、さっき特大ハンマーを出した香を
見ていなかった周囲の男共が、
チラチラと先程から口笛吹きかねない視線で
香を見ているのも、気にくわねぇ。

ジリジリと、さらに香の肌を焼く日差し。
無粋な、増えてゆく男共の視線。

もう、限界だった。
奴等のニヤニヤ笑いも視界の端に掠ったが、
んな事かまってられなかった。
思考を破壊したのは、暑さのせいか
それとも焼けていってしまう香の肌か。
それとも嫉妬、か。

「ちょっと来いっ!」
「ちょ、ちょっと、何よ!痛い!腕離してよ!」



夏の海、天邪鬼の心のトリガーを引いたのは
さてなんだったのだろう。
暑い夏は、まだまだ続く。


fin

夏の海でのみんなを書いてみたくてv
ちょっとでも楽しんでもらえると嬉しいです(^^)
さて、ミックにもう少し働いてもらうとしますか。


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