花火



「リョウ、花火やらない?」
「あー?」
買い物から帰ってきた香がなんかそわそわしてる
と思ったら、そんなことを言い出した。
「なんだよ、突然。しかも花火なんて家にはねぇだろ」
「美樹さんと買い物の時にこれ見つけてね、夏だし
一度はやりたいよねぇって話になって買っちゃったの。
だから、やろ?」
「もちろん、美樹ちゃんも来るんだろーな?」
俺はソファにねっころがったまま、表情を崩した。
もちろん、美樹ちゃんの浴衣姿を想像してのことだ。
「それがねぇ、海坊主さんと二人で楽しみたいからって
断られちゃって・・・」
「なーんだ、リョウちゃん美樹ちゃんの浴衣姿
期待したのにぃ」
「なによぉ。で、やるでしょ?」
「どうしようかなぁ、めんどくせぇしなぁ・・・」
よほど花火をやりたいらしく、怒りもせず花火に
こだわる香の表情をもっと見ていたくてついつい
習慣的にしぶってしまう。



「カオリ、そんなもったいぶるヤツなんかほっといて
ボクとどう?」
「へ?」
そんな俺らの会話に突然割って入ったのは、向かい側
の自称(あくまで自称だ)敏腕新聞特派員。
「ミック、勝手に入っくるなよなぁ」
「俺達の仲じゃない。気にしない、気にしない」 
そう言いながらちゃっかり香の肩を抱いてるのが
気に食わない。
「日本の情緒を味わってみたいんだよ、花火しよ、花火っ!いいだろカオリ」
「じゃあさ、かずえさんも呼んでうちの屋上で花火しようか」
「あ、カズエは今教授の仕事でいないんだ、残念なことに」
もっともらしくうなづいてはいるが、最初からこいつはカオリと
二人っきりで花火、というのが頭にあったらしい。
にやけまくった顔がいい証拠だ。
「カオリ、もちろん浴衣着るんだろ?ボクの為に着てくれる
とうれしいなぁ」
「ミック、男女の浴衣姿なんて目の毒だぞ」
「あれぇ、リョウさっき花火しないって言ってただろぉ?
俺は、カオリの浴衣姿が見たいのっ!リョウには関係ない
はずだよなぁ?どうせ一緒に花火しないんだしぃ」
「あ、ああまぁ俺には関係ないことだな。せっかく
忠告してやってるのによぉ」
「何の忠告よ・・・リョウ」
背後に香の殺気を感じた。いつもながらじと目でハンマーを
かまえている。
「軽いじょ―だんだよぉ、香ちゃん。あははは」
俺はあわててリビングを逃げ出した。
後ろから香の怒鳴り声が追いかけてきた。


 *  *  *  *  *  *  *

「ほんとにミックと花火する気かあいつ・・・」
あの後自分の部屋に逃げ込んでどうにかハンマーを
くらわずにすんだが、夕飯の時かろうじて飯は用意
してあったものの、口をきいてくれなかった。
しかも、夕飯後に浴衣を着てくれることを再三
頼みにきたミックに、こちらを気にしながらも
俺と目が合った瞬間にうなづいてミックを喜ばしていた。
香のことだから引くに引けないという意地っ張りさが
頭を出したんだろう。俺も人の事言えないが。


「ヤッホー、リョウ元気かな?」
いつもながら勝手に俺の部屋に入ってきたミックは
どっから引っ張リ出してきたのか着流しを着ている。
「着慣れないもん着てんなぁ」
「ご機嫌斜めだねぇリョウ、どうしたのかなぁ?」
挑発するように覗き込んでくる。
こういう時のミックの行動に乗るといいことはない。
前にダブル夜這いで失敗したのがいい例だ。
「なんだよ、さっさと花火しにいけばいいだろ」
「つれないなぁ、今カオリが浴衣に着替えてるから
覗きに行くのせっかく誘いに来てやったのに」
「ば、ばかかっ!?なんで俺がっ」
「あいかわらずだなぁ。じゃあ、俺だけで・・・」
「!!おいっ、ミックッ」
とっさに止めようとして、ほらみろとニヤニヤとミックが
振り返った時、香がミックを呼ぶ声が廊下から聞こえてきた。
「じゃ!行って来るねぇん」
フリスビーを投げられた犬よろしく、飛び出していったミック
にあきれながらも半分あの従順さに感心しながら俺は見送った。


 *  *  *  *  *  *  *

「花火の音がうるさくて眠れないからいくんだよな、うん・・・」
自分にさえも空々しい言い訳をつぶやきながら屋上への階段
を上り、そうっと屋上へ続く扉から覗いた。
ネオンが明るいせいで花火が唯一の光という事は
なかったが、紺地に深い赤い花が咲いている香の浴衣はよく映え、
俺にとっては花火よりまぶしく見え、立ち止まってしまった。
うなじが妙に色っぽくて、いつにも増して目を奪われてしまう。
ガンッ!!
扉を半開きで立ち止まっていたのと、ほうけてたのが悪かった。
俺は不覚にも突然開いた扉に鼻をしたたか打ちつけた。
「いってぇ〜」
「あれ、リョウなんでそんなとこにいるんだ?」
扉を俺にぶつけたミックは、そこに俺がいたことを知ってたらしく、
ニヤニヤとしながら俺を覗き込んだ。
「花火の音がうるさくて眠れないんだよっ!」
俺はとっさに考えていたクレームを口にする。
それを聞いたとたん、ミックは大笑いしだした。
「・・・何がおかしいんだよ」
一通り笑い終わった後、なおもおなかを抱えながらミックは
目に涙を浮かべながら答えた。
「だってさ、リョウあの花火の音がうるさいって、どんな耳だよ。あーおかし」
扉の向こうの香の手元を見て、俺は失態をおかしたことに気がついた。
そこにあったのは線香花火。まだにぎやかな花火は横に置いてあったのだ。
  「うるせー、俺の耳はトクベツなんだよっ!」
負け惜しみとわかっていながらもついつ返してしまう。
「ま、そういうことにしときますか。オー、いけないいけない。
カズエのとこ行かなきゃ」
「かずえちゃん教授の仕事なんだろ」
「それが早く終わったらしくってな」
「おーお、それはよかったなぁ」
まったく幸せそうな顔しやがって。くそ。
「ミックー、そこでなにしてんの?かずえさん早く呼んできなよ」
「今行ってくるねー」
声だけで答えて、ミックは俺にウィンクしながら微妙に
小声で言った。
「俺はこれで退散してやるから。いいかげん素直になれば。どうせここで見惚れてたんだろ」
「なっ!」
反撃の言葉言う間を与えず、ミックは階段を駆け下りていった。
「この場合しょうがねぇよな、うん」
俺は自分に言い訳しながら、自分から折れることを決めた。
そして、そろそろと扉の外に出て行ったのだった。


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ミック好きですー(^^) でもミックがこんなに動かしづらいキャラだとは・・・
私的には今回は話のテンポをあげようと思ったのに、
みごとに最初からずっこけて更新日時まで
止まってしまいました・・・(;;)
はい、すみませんちょっーと(かなり・・・)
言い訳入ってます。m(__)m

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