あなたの名は…
*原作終了直後の設定です。
｢リョウちゃん、香ちゃんっ！聞いたわよぉ〜｣
香と二人で歩いていると、背後から野太い声に呼び止められる。
振り返ると、満面の笑みのオカマバーの静子ママ。
｢とうとう、二人の気持ち確かめ合ったんですって？おめでとう♪｣
俺は心の中で頭をかかえた。
もうやめてくれっ！！っていうのが本音だ。
この所、俺達はこの手の話を呼び止められてわざわざされる事が
日常になっていた。
この新宿界隈に俺達のうわさが流した根源はおそらくうわさ及び
おせっかい好きのあいつらである事に間違いはないが、煙が全く
ないわけではないから始末に悪い。
俺はともかく、香はいつまでたってもこの手の話に慣れなくて
毎度毎度固まってしまう。
今も俺の横で真っ赤になってゆでダコ状態だ。
しかも、あちらこちらでこの手の話をしてくれるおかげで、
香が妙に意識しちまって二人っきりになると俺が近づくだけでも
最近は意識してガチガチになっちまう。
なんだか最近の方が妙にギクシャクしてしまって、
正直香に近づけなくて欲求不満。
まさかあのおせっかいな金髪の天使はそれを見越して
うわさを新宿一帯にばら撒いたんじゃねーだろーなぁ〜（−−＃）
｢・・・そういえば香ちゃん、今度から『マキムラ カオリ』から『サエバ カオリ』に
なるのかしら？｣
｢｢え？？｣｣
俺達がそれぞれ自分の世界に閉じこもってほとんど聞いていない状態でも
うれしそうに話を続けてた静子ママが、そんな事を言い出した。
｢お、おいなんて事言うんだよ！静子ママ｣
｢だって、一緒になるんでしょ♪ね？香ちゃん｣
俺は戸籍ねぇからそんな結婚なんて形式的な事はできねぇんだよっ！
ってそんな事情はこのママが知らないのはしょうがないとしても、ぜーってぇ
おもしろがってんな、ママ。
｢･……｣
その時なんか香が何か呟いた。
｢え？香ちゃん？｣
静子ママも聞き取れなかったようで、香より頭一つ大きい背をかがめて
香に視線を合わせる。
｢//////…濁点つくなんてイヤっ！！｣
｢は？｣
おい、香いくら恥ずかしいからってなんか論点ずれてるぞ。
たぶん沸騰している頭は思考回路がショートしそうだったんだろうが･…
だがしかし、なんかちょーっと傷つく言葉だぞ、おい。いくら本名かわからない
苗字とはいえ、長年（30年は使ってないはずだがっ！）使っている苗字を、
濁点があるばっかりに否定されちまうなんて。
恥ずかしすぎて走り去ってしまった香の後ろ姿を見送っていた俺の肩を、
静子ママは軽く（あくまでママにとっての軽くだが）叩いた。
｢元気出しなさいね？｣
◇◇◇
そして次の日、新宿界隈には
『苗字に濁点があるばっかりに、新宿の種馬が愛しのパートナーに振られた』
という噂が流れた。
｢ねぇ香さん、冴羽さんの苗字なんでイヤなの？｣
噂を聞きつけたキャッツの女主人は、いつものようにコーヒーとおしゃべりを
楽しみに来た香に単刀直入に問う。
｢////だ、だってあたしはリョウの奥さんって訳じゃないしっ！！｣
｢まぁ、その事は置いておいて。でも、イヤって言ったからには訳があるんでしょ？｣
照れて真っ赤になって両手をぶんぶんと振り回して否定しようとする
香の論点がずれそうになるのをサラリと修正し、美樹は自分自身の興味を
満たすべく問いを重ねる。
｢////あ、あれは･…別に苗字がイヤな訳じゃないのよ。ただ、名前を
何かに記入する時にフリガナを振る時って濁点どうすればいいか悩むじゃない？今まで
あたし名前に濁点ないから余計違和感が、ね。それであんな事を言っちゃったの｣
｢あ、その気持ち、わかるわ。私も『イジュウイン』って濁点つくから
フリガナ悩むのよねぇ｣
｢でしょー？｣
午後の昼下がり優しい日差しの中、パートナーの苗字に濁点がつく事で
盛り上がる裏社会の住人のパートナーが二人。
その時、その場にいないお互いの愛しのパートナーが盛大に
くしゃみをしたとか、しなかったとか。
平和なことは良きことかな。
fin(?)
えー、このお話はもともと最初のカオリンが逃げるとこで終わるはずでした。
でも珍しく早いスピード（私にしてはですが）で書き上げた時にハタと読み返して、
このままではまるで濁点の苗字を否定してるみたいじゃないか！と気になってしまい、
（全然そんなつもりはないんですっ！かくゆう私も濁点ありの苗字ですし）
最初はリョウにカオリンに問いただしてもらおうとして失敗し、
美樹さんにその役を変わって買っていただきました（＾＾；）
ちょうどこのネタは私も濁点ありの苗字になってちょこーっと思ったことです。
ということで、削除したリョウ、カオリンに問う部分があぶれてしまったので、
おまけとしてアップします♪(もったいないおばけが出ちゃうので(笑))
→おまけ
でも、そういえば美樹さんの旧姓って何なんだろ…
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