硝煙の匂いを消す為、
仕事の後はバーに行き、酒を飲む。
それは、いつもの事。
ターゲットのあの歪んだ表情が、
俺の中から消える事はない。
それも、いつもの事。
過去に繰り返されてきたそれらの光景は、
俺の中にすべて沈殿して消える事はない。
それが、せめてもの俺の手向け。
「そろそろ、帰るか...」
アルコールが身体中に回っても、酔いは回らない。
仕事をした後の酒は、なおさら。
すでに夜は明けており、街は朝の営みを始めている。
会社に向かうサラリーマン達が、同じ方向へせかせかと
流れていく。
ご苦労なこって。
そして何を血迷ったのか、
俺はアパートに向かうルートを変え、中央公園へと向かった。
香がジョギングしているであろう、公園へ。
初めから、遠くから香の事を見るだけのつもりだった。
声はかけずに少しだけ香と例のジョルジュを拝んで、
俺の中の苛立ちを自分でせせら笑ってアパートに
帰るつもりだった。
それなのに、そこにあった朝の一風景に
足が地面に張り付くのを感じた。
香と例の犬、そしてその犬の飼い主らしき優男。
それは、爽やかな朝にしっくりとくるほのぼのとした風景だった。
走る犬、はじけるような笑顔の香、
そして香への想いを視線に乗せてにこやかに微笑む男。
俺にはこの一場面に登場する権利がないと、
主張するかのように酒の匂いが、鼻につく。
こんな血塗られた俺には、この朝の一場面は眩しすぎて
立ち去る事さえできずに、身を隠しもせず
そこにつっ立っていた。
そんな俺を、香が見つけた。
「あ〜!!!リョ〜!!あんた今までどこ行ってたぁあ!!!
そこへなおれぇ!!」
「げっ!?」
ドッッゴーーーン!!!
そしてみごとにハンマーで潰され、
俺は香と同じ朝の風景に納まった。
「ひえぇ〜、香様お許しをぉ〜!!」
「ゆるさーん!!」
優男とジョルジュのビックリした表情が、
走り様に目の端に映る。
ちょっとした優越感。
悪いな、これからは俺達特有の朝の一風景だ。
はは、ハンマーで潰されて喜んでる男なんて、
俺自身気が違ってるのかと思う。
かなり屈折してるのは、俺だって認めるさ。
だが、躊躇する俺をこの風景にすんなりと溶け込ませてくれた香は、
俺がここにいていいと言ってくれている様で...
ハンマーは免罪符のように思えた。
そんな俺を、またハンマーが襲った。
にぎやかな、朝が始まる。
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