今日は、リックからの依頼を遂行する。

「リョウ、今晩はどうするの?」
「あ〜ん?今日はぁ明美ちゃんとデートだから、
リョウちゃん帰ってこないかもぉ〜♪」
「なぁにぃ〜、天誅!!」

ヒョイ

ドコーン!!

「んじゃねぇ〜♪だから、待ってなくていいからなぁ。
しっかり朝のマラソンしろよぉ〜」
振り下ろされるハンマーを避け、
俺は手を振ってアパートを出た。

「誰が、あんたなんか待ってるかぁ〜!!」
香の怒鳴り声が、後ろから追ってくる。

この数日、香は時々心配気な表情を向けてきていた。
どうも、裏で俺が何かしているのを感じてるようだ。
出来る事なら、香に俺のこんな部分は見られたくない。
だから、誤魔化してしまう。
それが、また香を悲しませているのはわかっているのだが・・・

剥き出しのビルの非常階段に座っていると、
考えなくてもよい考えが浮かんでくる。

ネオンの明かりと、夜中だというのに切れない人の流れにより、
こんな所にいようが逆に人目につかない。
人が溢れている街中での、隔離されたかのような空間が、
より考えを深くさせる。

リックは、どうして大切な者を手放す決心を
したのだろうか。
あいつはもともとはどんな相手でも、
たとえそれが組織のボスの愛人だろうが
愛してしまえば関係ない性格だったはずだ。
それが変わったのは、確実に仕留められる左手を
失ったから、か?
...じゃあ俺は、そうなった時どうするのだろう?

「...そろそろだな」
それでも、仕事はもちろん頭から抜けてしまう事はない。
もうすぐ、ボスからの指示で来日しているフランツが
店から出てくるはずだ。
手に持っていたライフルを構える。

店の扉が、開いた。
出てくる人影。
ターゲットだと確認し、引き金をゆっくりと引く。
スコープ越しに、倒れるターゲットの苦痛に歪んだ表情が
目に焼きつく。


俺は、足早にその場を立ち去った。


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