something like・・・


「・・・香、これはサービスだ」
あたしがいつものように依頼が無くて肩を落として
そしていつものようにキャッツのカウンターへ腰を落とすと、
待ち構えていたように芳しい香りのコーヒーと
とってもおいしそうなモンブランが目の前に出現した。

「え?」
見上げると、そこには真っ赤に湯気を立てた海坊主さんの横顔。
そのままくるりと後ろを向いて奥に引っ込んでしまった。
「食べてあげて、香さん。それファルコンのホワイトデーのお返しだから」
きょとんとしているあたしに、くすくすと笑いながら
美樹さんが声をかけてきた。
「しかも、手作りなのよ、そのモンブラン」
こっそりとそう教えてくれたモンブランは甘め控えめで、
お店で普通に売っててもおかしくない程(って喫茶店で出てきた訳だけど)
おいしかった。
キャッツにメニューとして出したら売れるんじゃない?って
美樹さんに言ったら、『私もそう言ってるんだけど、ファルコンが嫌がって』だって。
売れると思うんだけどなぁ。

「ごちそう様って海坊主さんに伝えておいてね」
結局キャッツを出るまで表に海坊主さんに出てこなかったから、
美樹さんにそう伝えてキャッツを出た。

そういえば忘れてたけど、今日は3月14日、ホワイトデー。
バレンタインデーほどの華やかな雰囲気は無いけど、
見回せば確かに街中には心なしかカップル多い?

でもあれだけバレンタインの時はチョコを買う女の子が
街中に溢れるのに、ホワイトデーはお返しに群がる男の子っていうのは
見ないかも。
おかしな話よねぇ。

「やぁ、カオリ♪」
今日の夕飯の買い物も終えたし、アパートに帰ろうと足を向けると
花束を抱えたミックと出会った。
「かずえさんに?」
「この花束はね。もちろん他にもあるけど。そして、カオリにはこれを」
そう言って懐からスマートに取り出した小さな小箱。
こういう姿が様になるわよねぇ、ミック。
本人に言ったら、すかさずお礼のキスとかされそうだから
言わないけど。

「今日は日本でいうホワイトデーらしいから、この間のお返しだよ」
「ありがと、ミック。でもそんなに気を使わなくても良かったのに・・・」
だって取り出された小箱は見るからにアクセサリーが入っていそうな
代物で、そんな言葉がつい口に出た。

「ちっちっ、心配ご無用だよ、カオリ。パッケージはほんの茶目っ気さ。
箱を開けてごらん」
人差し指を顔の前で大きく横に振り、ミックは箱を開けるように
オーバーアクションで促した。

箱を開けると、そこには宝石のようにカットされた色とりどりの
キャンディの入った小瓶が一つ。

「なかなか洒落たパッケージだろ?開けるまでそれがキャンディとは気付かない♪」
「ありがと、ミック」
「いやいや、カオリに喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあ俺はカズエと
待ち合わせだから、またね」

宝石のようにカットされたキャンディは、子供の頃に好きだった指輪を模した
キャンディを思い出させた。
その頃のあたしは今にも増して自他共に認める男勝りだった。
だから、そういった可愛らしいものが似合わないとあたし自身が感じてたから、
なんとなく気恥ずかしくてこっそり誰にも見つからないようになめてたっけ。
で、誰かくるとそのまま慌ててポケットとかに入れちゃうから、べとべとに
なってよくアニキに怒られてたっけ。

「・・・そうそうカオリ、その小箱をあいつの目につく場所に置いておいてごらん。
おもしろいものが・・・もとい、カオリにとってうれしいものが見れるかも
しれないよ」

昔のことを思い出してつい気もそぞろでいたら、ミックが思い出したように
振り返ってウィンクと共にそんな言葉を残していった。
「リョウの気持ちがわかるかもよ」

「この小箱が、ネェ・・・?」
ちょっと半信半疑。
だって、あのポーカーフェースが服着てるような(もちろん、美女の前では
顔のネジ飛んじゃってるけど・・・)気持ちの切れっ端も
見せてくれないようなヤツがそんな嬉しい態度を見せてくれるかしら。

・・・でも、あいつのそんな態度が見れたら嬉しいのは
ちょっと悔しいけど紛れもない事実なわけで、あたしは早速アパートに帰って
小箱をダイニングテーブルに置いた。

なんとなく試すみたいで後ろめたい気持ちと、どんな表情が見れるかなっていう
ドキドキのHalf and half。

落ち着かせるためにちょっと早めだったけど夕食を作るのに
キッチンに向かう。

今日の夕食のメインはとんかつ。添えるキャベツを千切りにしていく。
意識はついつい背後にいってしまってキャベツを切るスピードが
あがらない。

リョウ、どんな態度とるかな・・・?
「・・・お前、なんでキャベツ切りながらニヤニヤしてるわけ?」
「きゃっ!!」
いきなり背後から声が聞こえて、あたしは飛び上がった。

「あ、あ、あ、あんたっ!いつ帰ってきたのよ!!急に背後に立たないでよ!!」
「どあっ!!落ち着けよ。頼むから包丁突きつけるなっ!」
「あっ、ごめん!」

急に聞こえた声にビックリしすぎて振りかざしてしまった包丁を
慌てて下ろす。
「ったく、あぶねぇな。ほんと」
「っていうか、背後に気配消して立たないでよねっ!」
せっかく背中に意識集中してたのに、気付けなかったことが
悔しくて、ついリョウに八つ当たり。

「今日はメシ作るの、早くないか?」
「そ、そう?なんとなくよ、なんとなくっ!」
「ふぅーん、それほど今日はごちそうってことか」
「うちにはそんな余裕ありませんっ!あんたが馬車馬みたいに食べるから!
ちょっと向こう行ってたら」
「へぇへぇ」

っと、びっくりしすぎてリョウの表情を観察するの忘れてた。
よくよく見ると、やっぱり整った顔立ちよね・・・ってちがぁ〜う!

まだ、テーブルの上の箱に気付いてないのかしら?
「なんだよ、テーブルになんかあんのか?」

わっ!不自然になっちゃった!
焦ってリョウの顔を伺ったけど、表情の変化は見えない。
「ミックか?」
「う、うん。ホワイトデーだからって」
「・・・ふぅん。飯早く頼むわ」
「・・・うん、わかった」

やっぱり表情一つ変えないでキッチンを出て行こうとするリョウに、
ちょっと気持ちが沈んだ。

・・・ま、こんなもんよ。
リョウの気持ちが雲みたいなのはいつもの事。
いちいち気にしてたらリョウを想い続けるなんてできやしない。
料理に集中!集中!

「・・・・・」
気をとり直してキャベツと向かい合おうとしたら、ぼそぼそと何か
呟く声。
「え、何?」
「あっ!?いやそのなんだ、一応俺も香ちゃんからバレンタイン
もらっちまってる訳だしぃ〜一応お返ししとかなきゃなぁと。ほら、やる」
「一応ってなんか失礼ね。でも、ありがと。キャンディ?」

リョウがお返しをくれる事自体が嬉しいから、一気に気持ちは急浮上。
あたしって現金かな?と思いながら差し出された小箱を笑顔で
受け取った。

「ま、そんなもんだ。じゃ飯早くな」
「わかったわよ。でも、箱見てからね」
リョウがそそくさと出て行った理由を知ったのは小箱を開いた後。

そこには、キャンディのようなチェリークォーツのペンダント。
そして、さっき聞き返した言葉が聞き間違いじゃない事に気がついた。

「こっちのほうが似合うっつぅーの」

嬉しい気持ちは、料理に込めて、このキャンディを胸元に飾って
いつものように賑やかな夕食を始めよう。
どんな表情が見れる、かな?

Fin

<<<言い訳>>>
WhiteDay話です。今更なので、こっそりと拍手にアップです。
最後までお付き合いしてくださってありがとうございます。
m(__)m
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