*Storyの『寒さを忘れる程に』の続編ですv

Eyes of another person ―友人から見た二人―


「あら、寒い時にハンマーって有効なのね」
私は助けに入った食肉冷凍庫で香さんがハンマーを振り下ろしている
瞬間を目撃して、そう呟いた。
だって、香さんったら顔が真っ赤で今にも湯気が出そうなんだもの。
そして、ハンマーに書かれているフレーズを見て冴羽さんが何を
しでかしたのか、だいたい予想がついた。

「ばかっ、リョウの馬鹿っ」
「まぁ、まぁ香さん落ち着いて。ね?」
こんな湯沸かし器のように頭から湯気を燻らせて
怒っている香さんと、こんなに怒らせた根源のくせに飄々としている
冴羽さんを同じ車に乗せるのも忍びなくて、
私はファルコンと私が乗ってきたフォードの4WDの後部座席に
香さんをタオルケットを渡しながら、乗せた。
そして、隣に私も乗り込む。

「とりあえず、引き上げましょ」
周辺では濛々と煙があがるばかりで、うめき声しか聞こえない位
静かになっていた。
もう、ここでの用事は済んでいる。


「冴羽さん、香さんはこちらの車で連れて帰るから」
「へい、へい。ご勝手に」
車の窓を開けて、ミニクーパーに乗り込もうとしている
冴羽さんに声をかけたけど、その返事には
全くもって反省の色が見えなかった。
でも、なんとなく拗ねているように
見えるのはなぜかしら?

「さ、行きましょ」
「・・・うむ」
走り出した車の中で、食肉冷凍庫での出来事を
香さんが怒りにまかせて洗いざらい教えてくれた。
でも、それは・・・傍から見るとどう見ても、ねぇ?
先程の冴羽さんの表情にも、納得する。

「ね?!馬鹿にしてるでしょ!」
「・・・ねぇ、香さん。それ、冴羽さん本気だったんじゃない
かしら?」
「へ?だ、だって頬引っ張ったし、お前なんかにっていつも
みたいに言われたしっ」
「最初はちょっとからかおうと思ってたのかもしれないけど、
香さん見つめた時の冴羽さん、どうだった?
落ち着いて考えてみて」

それでなくても、いつもこの二人はくっつきそうで
くっつかないのは、このパターンなのだ。
端から見ていれば(その場を見ていなくても)、
冴羽さんがちょっとからかおうとして
逆にミイラ取りがミイラになってしまったのが
手に取るようにわかってしまう。

冷静になってきたのか、みるみる赤くなる香さんの表情。
「それに、そんな冴羽さんに香さん、困惑したんでしょ?
顔に出たんでしょ?」
「うん・・・」
「それが、冴羽さんが躊躇した理由よ。ね?
だから冴羽さんおちゃらけてみせたのよ。
あまり怒らないであげて」
「で、でも、じゃあどんな顔して会えばいいのかな!?」
今度は、怒りもすっかりしぼんでしまったしく、おろおろと
し始める。

本当、かわいいんだから。
「普通にしてればいいのよ。ね?」
香さんを宥めて落ち着かせた頃、車は冴羽アパートの前に到着した。

「さ、香さん。普通に、普通にね」
「う、うん」
普通にと言ったのに、ぎくしゃくと車を降りて行く香さんに、
応援の意味を込めて手を振る。

そしてミニクーパーから降り立った冴羽さんには、
『優しく、ね。素直になりなさい』と
口パクで伝えた。

素直じゃない冴羽さんは、もちろん私の言葉には
片手をあげるだけでしか返してくれなかったけど、
まぁあの天の邪鬼な冴羽さんだから、仕方ないわね。

本当に、第三者から見ればもどかしいばかりなんだけど。
香さんが、あまりにかわいそうだわ。
「美樹、あきらめろ。犬も食わないあれだ。放っておけ」
「そうね」
友人の幸せを思ってついつい口を出したくなっちゃうけど、
確かにこれは二人の問題だし。

ゆっくりと発進した車のバックミラーには、
同じペースでアパートに入ってゆく二人の姿が
映っていた。
そして、香さんの腰に自然に回される冴羽さんの腕に、
やはりいらぬ心配だったのね、とほほ笑んだ。


<<<言い訳>>>
この二人には、お互いの天の邪鬼な行動を翻訳して
くれる友人が、やはり必要かと思いまして。
今回登場の翻訳者は、美樹さんですv
駄文に最後までお付き合いいただいた方
ありがとうございますm(__)m


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