風の中の呟き 俺は槇村秀幸。 俺は、あの世という所にいるらしい。 ここは現世ではない、身体を持たない世界のようだ。 時々、俺は現世を覗く。 現世に残してきた人への想いが、 俺にそうさせる。 冴子は、まだ警察で頑張っている。 時々人知れず見せる憂い顔は気にかかるが、 すでに実体のない俺には偶然を装ってそよ風で 頬をなでてやる事位しかしてやれない。 動きづらい組織の中で頑張っている彼女を、 しっかりと支えてくれる人物が現れればよいのだが。 俺が傍にいてやれない現在は、それが一番良いのだ。 理性ではそう思いながらも、心の奥底では 彼女が心からの笑顔を向けられる男が現われる時を 恐れている。 願わくば、彼女に幸せを。 それは嘘偽りない気持ちだ。 だが、しかし・・・ 死んでもなお、こんな無限ループのような悩みに 振り回されるなんて、な。 あまりの自分自身の諦めの悪さに苦笑しながら、 抱きしめられない代わりに、心地よい風で 冴子を包み、又の機会までと別れを告げる。 次に向かったのは、香のところだ。 大事な妹の様子は、恋人同様 俺にとっては心の残りが大いにある。 最期の時、俺はリョウに香を頼んだ。 そして、香はリョウのパートナーとなった。 それはいい。リョウの元にいたほうが あの危険な状態では、安全だ。 そして、パートナーなのだから 当たり前と言ったらその通りなのだが、 香の所を訪れる度、隣にはリョウがいる事が多くなった。 ハンマーで潰されている事もしばしばだったが、 最近は兄としては気のせいだと気付かない振りをしたくなるような 二人も時々だが見かけるようになっていた。 今日だって、嫌々という体裁を保ちながらも香のショッピング に付き合っている。 夜香の眠るベッドの横で、リョウが感情が溢れそうなのを抑えながら 香の寝顔を見つめているのを見かけるにつけては、 兄としては心臓に悪いことこの上ない。 だから、兄として一言ぐらい恨み節を言わせてほしい。 あの時『香を頼む』とは言ったが、 『香の一生を頼む』とは言ってないぞ!! 断じて、言っていない! 無意識に発した殺気に、敏感なリョウは気づいたようだ。 ブルリと少し頭を振った後、首すじに手を当てながら 背後を振り返っている。 見ない振りはしていたが、 以前から香がリョウに好意を抱いていたのは 薄々気づいてはいたんだ。 だから、理性では香にとってこれで 良かったんだとわかっているし、思っている。 だが、俺の感情は別だ。 兄として天塩にかけ育てた妹を、やるんだ。 これ位の憂さ晴らしは許されるだろう。 眼鏡を拭きながら、まぁ二人が幸せならいいんだと また他愛の無い事で喧嘩を始めた二人に微笑みながら、 その場を離れたのだった。 <<<言い訳>>> アニキはやっぱりこの二人が気になって 天から見ているだろうなぁと思ったら 呟かせてみたくなって書いてみましたv 少しでも楽しんで頂けると嬉しいですvv 駄文に最後までお付き合いいただいた方 ありがとうございますm(__)m |