天秤 ver ryo



あいつを離したくない気持ちと
あいつを手放した方がいいという現実
その間で揺れる天秤
どちらか一方にあと少しの力が加われば
俺は決める事ができるのだろうか・・・


香がいる時とは違い、薄暗いリビング。
いつもならこうこうと明かりをつけてにぎやかな
夕飯をとっている時間だ。
今日香は絵里子さんと出かけていない。
どこかへ繰り出してもよかったが
今日はそんな気にもなれず、リビングの薄暗い闇の中でグラスを傾けていた。
明かりは外からの人工的な光のみ。
ついつい思考が闇に沈んでいくのを感じる。
こんな時はいつも香との事をどうすべきか考えてしまう。
香の意志もある訳だがあいつの本当の幸せを望むなら、
ただ単に俺があいつの前から消えればいいはずだ。
先日だってあいつは俺を狙う輩に連れ去られ、危険な目にあわせてしまった。
香の前ではガラじゃねぇし口が裂けても言えないが
俺の幸せはあいつの側にある。
だがあいつの幸せは俺のそばにあるのか?

「・・・リョウ?」
そこまで思考が巡らされた時、リビングに香がおそるおそる入ってきた。
『帰ってきた事さえ気付かないほど思考の迷宮に迷いこんでいたわけか』
自分の不用心さに自重的な笑みがこぼれる。
「電気つけるね?」
急に明るくなった視界に自然と目を細め、声の先に視線をむける。
「おい・・・?どうしたんだ、そのカッコ」
明るくなったリビングに立っていたのは、出かける時と違う服装の香。
しかも、いつもはほとんどしていない化粧も香の魅力を引き立てる程度だが
施されている。
ついつい見惚れてしまい、無意識に手を伸ばして抱きしめたい衝動に駆られる。

ハナシタクナイ二オモリガヒトツ

「やっぱり変かな・・・そ、そうよね、絵梨子ったら私をおもちゃにして
絶対こっちがいいから着て帰れって無理やりだったのよね!」
俺が何も言わないのを否定と捉えたのか、一瞬沈んだ表情を浮かべた香は
空元気とわかる表情で言葉を続ける。
香が自分の魅力に気付かないようにわざと傷つく言葉で
自信を失わせているのは俺。

ハナシタホウガイイ二オモリガヒトツ

イザという時に動けるように香がおしゃれするのを止めているのは俺。

ハナシタホウガイイ二オモリガヒトツ

傾く天秤。

「・・・そんなことないぜ、似合ってる」
「え!・・・////ありがとう」
いつもは絶対に気恥ずかしくて言えないセリフだが、
香の笑顔が見たくてそんな本音が漏れた。

ハナシタクナイニオモリガヒトツ

「あ、リョウコーヒー飲む?」
「ああ」
「それだったら着替えてから入れてあげる。ちょっと待っててね」
「香・・・」
「え?」

ハナシタクナイニオモリガヒトツ

ハナシタクナイニオモリガヒトツ

ハナシタクナイニオモリガヒトツ・・・

「///リョウ、コーヒー入れられないよ?」
「・・・あぁすまん」
「・・・着替えてくるね」
とっさに抱きしめてしまった香の感触が、ぬくもりが
腕に残る。
するりと恥ずかしそうに腕をすり抜けて出て行った香に
寂しさを覚える。

『結局は天秤なんてずっと昔に離したくない方に傾いていた・・・』

わかりきった事、俺自身の気持ちなんてはっきりしていた。
それを認めなかっただけ。認めるのが怖かっただけ。

あふれた天秤の片側。
それに気付かないフリをしつづけていただけ。

『いいかげん認める覚悟すべきか・・・?』
もう限界だ。
香を離したくない、離せない。

逡巡していた想いが今動く。


fin

いいかげんうちのリョウにも香ちゃんとの未来を決断させようと
したのですが、うちのリョウは根暗で根暗で決断したところで終了(;;)
書きながらいいかげんにせいっ!と思ってしまった。(−−;)
いえ、私の文章力がないからです・・・すみませんm(__)m
リョウ撃たないで!

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