たまには



「あー、何をやったらいいんだっ」
 冴羽リョウは悩んでいた。
 今日は3月14日。
 一ヶ月前のお返しに、世の男性陣が頭を悩ますイベントが
すぐ目の前に迫っている。
「あいつなんだったら喜ぶかなぁ」
 そう思いながら、今日3時間も新宿中を歩き回っている。
 もちろん、ナンパも合間合間に習慣のようにしていたが。
「そういえばここ、香とこの前歩いたな」
 衝動買いにつきあって荷物をいっぱい持たされた状態で
香と歩いた事を思い出して、自然と口元がほころぶ。
 なんでもないそんな穏やかな時間がたまらなくいとおしかった。
「この雑貨屋をのぞきこんで香がなんか言ってたような・・・」
 香が見ていた辺りを覗きこんで、今年のプレゼントをすぐに
決まった。俺はすぐに雑貨屋の扉を押したのだった。

           *********

「リョウ遅いなぁ、ご飯冷めちゃう」
 あたしは、リビングのテーブルに頬杖をつきながら
時計を見上げた。時計は8時を回っている。
「先に食べてよ−かな。でも、食事くらい
一緒に食べたいのに・・・」
 今日はホワイトデー。いくらお菓子会社の陰謀とはいっても
街を歩けば何処に行ってもその言葉が目に入れば、なんとなく
意識してしまう。
 伝言板を見に行った帰りに仲の良いカップルを見かけたのも
影響しているのかもしれない。
 一緒にいたいと思うのはあたしだけかも・・・
そこまで思考がいってなおさらへこみそうになる。
「ただいまー」
「リョウ、仕事もしないで何やってたのよっ!」
「べぇつにー、いつも通り」
「ナンパしてたってわけね。ご飯冷めちゃうでしょっ!
・・・ってなにこれ?」
 何も言わずに押しつけられた袋を覗きこむ。
 長方形の箱と、背の高い細長い箱が一つずつ。
「たまには家で酒飲もうと思って買ってきた」
 背の高い箱は、見るからにお酒。でも、もう一つの箱は?
「ねぇ、お酒二種類も買ってきたの?」
「いや、片方はグラス」
 グラスなんて家の使えばいいのに・・・?
 疑問に思ってそちらを先に開けてみると出てきたのは、
フルート型のグラスが二つ。脚の部分が淡いピンク色になっている。
 これって!!
「ねぇリョウ、覚えていてくれたの?」
「なんのことだよ?俺は腹減ってるの。
 どうせ飲むの後だろ?はやく飯にしよーぜ」
 そういいながらこちらを見ようとしないリョウの顔が少し
赤いと思うのはあたしのうぬぼれかな?
 このグラスを雑貨屋さんで見つけた時にあたしがリョウに言った
たわいない、日常の中の一言。
『フルート型のグラスって、シャンパンの泡がきれいに映えるんだって。
こういうので一度飲んでみたいなぁ』
「香、めしー」
覚えていてくれたってことがすっごくうれしい。
顔がゆるんでしまうのが止められない。
「香ー」
「はいはい」
表情を戻して、食事の準備。
食後にはシャンパンに苺をそえよう、映画のワンシーンみたいに。
 たまには、そんな時間過ごしていいよね?

 そして、あたしはシャンパンを開けるときにもう一つの
ホワイトデープレゼントに気付いた。
 シャンパンのラベルに刻まれた年が、私達が初めて会った年で
あることに。

もうすぐ春。

fin

すみません、なんとなく支離滅裂な気が・・・
はじめは映画のワンシーンみたいにシャンパンを楽しむ二人を書こうと
思ったのですが、その前説で終わってしまった(^^;)
一応ホワイトデー話。
前回バレンタインデーは書けなかったので
がんばってみました。


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