桜吹雪のなかで



「ねぇ、リョウ桜もうちょっと見て行こうよ」
 そう言って、この公園に誘ったのは、あたしの方からだった。 
 海坊主さん達と土手でお花見をした帰り道で、たっぷり桜は堪能
したはずなのに、もう少し桜を見上げていたかった。
 正直に言うとこのまま家に帰るとなんか現実に戻るみたいで、
二人でもう少し非現実を楽しみたかった。
 いつも見慣れた新宿の片隅の小さな公園だけど、桜が咲いてるだけ
でいつもと違う。さっき飲んだお酒も幻想的な雰囲気を手助けしてくれてる。
「おまぁ、かなり酔ってるだろ。さっきたっぷり桜見たから、リョウちゃん
もうたーくさん」
「ウソ!あんたさっきナンパばっかしてて桜なんて見てないじゃない。
だからちゃんと今から見るのっ!!」
 帰ろうとするリョウを引っ張って半ば強引に公園内に入っていく。
 一人も人がいない。こんな都会の真ん中なのに、妙に隔離された
場所に感じられた。
「ここの桜、けっこう穴場だったんだぁ」
「香、足元ふらついてるぞ」
「平気、平気」
 桜を見上げていると、ふわりふわりと舞い落ちてくる桜の花びらを無性に
捕まえたくなった。まるでどっかの誰かさんみたいに、どこにいくか
予想がつかない桜の花びらを、捕まえようと手をのばす。
 お酒飲んでるせいか自分の行動が他人事みたいで、全然恥ずかしいとか
思わなかった。ただ、目の前の桜を捕まえたくってしょうがなかった。

 *  *  *  *  *  *  *

「子供みたいだな―――」
 一生懸命花びらに手を伸ばす香の姿に、愛しさがこみあげる。
 いつの頃からか、こんな穏やかな時間を二人で過ごすことに喜びを覚える
ようになった自分がいた。それと同時に、二人の時間を失いたくないという
感情もつねにつきまとう。本当にずっと同じ道を歩き続けることができるの
か・・・
 桜が、発光するかのように闇に白く浮かび上がっている。同じくらい透明
感のある香の白い肌がまぶしい。
「きゃっ」
 突然、風がふいた。緩やかに思い思いに弧を描いて舞っていた桜達が、一斉
にななめに地面を目指す。香はその風に巻き込まれ、おぼつかない足取りを
すくわれて体制をくずした。
 伸ばした俺の腕に、香が無条件でしがみついてくる。
「・・・だからいわんこっちゃない」
「ごめん」
 俺の腕の中に、すっぽりおさまってしまう華奢な身体をすぐそばに感じ、
無意識に鼓動がほんの少し跳ね上がる。ガキでもないのに、この反応は
かなり俺自身笑えた。
「・・・リョウ?そろそろ苦しいんだけど・・・」
 恥ずかしくなってきたのか、俺の腕の中でもがく香をこのまま素直に離す
のも惜しくて逆に抱きしめ、その赤みがかったくせっ毛に香にさえ見つからないよ
うに口づける。俺の香へのささやかな愛情表現。
「リョウ・・・?」
 ちっとも離そうとしない俺を、ちょっと潤んだ物問いたげな瞳で見上げようと
してくる。これ以上何もしないで抱いているのは、理性が限界だった。
 でも、まだ香との関係を踏み越える勇気は俺自身持ち合わせていない。
「―――やーっと取れた。お前の髪ってやっぱ絡むなぁ。性格同様」
「へ・・・?」 
「だからぁ、お前の髪に俺のジャケットのボタンがからんじゃったの」
 誤魔化す言葉は香に本当に投げかけたい言葉とは裏腹に、あきれるほど
スムーズに口から飛び出してくる。
「あ、そうなんだ・・・」
 息を吐くと同時に瞳をふせた香の表情に、少し後悔を感じる。
  「桜だらけだぞ、頭」
 頭に乗った花びらを払ってやる。こいつがさっきの俺の行動と意味を知ったら
どんな反応するのだろう?
「帰るぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ」
 追いかけて来て腕を絡ませてくる香に、いつかは言葉と行動にする勇気を持ち
たいと思いながら、今の2人の関係を味わっていた。

fin

ちょっとは甘くなったかな?
前回は甘くしようとして重くなっちゃったから、
今回も甘めに挑戦しました!!
基本的に私は甘い2人は大好きです(=^^=)
セスナにアパート壊されて香ちゃんの膝枕で
寝てるリョウとか・・・キャー(=^^=)


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