日常のぬくもり



「ねぇ美樹さん、海坊主さんとの年の差って感じた事ある?」
いつものように依頼がなかったと肩を落としながら、
いつものようにコーヒーを飲みに来てくれた香さんが
ぼーっとしてたかと思うと急にそんな事を聞いてきた。

「急にどうしたの?香さん」
「うん、あたしとリョウも結構年離れてると思うんだけど、
美樹さんと海坊主さんもそうじゃない?話とか合わない事って
あるかなぁって思って」
「誰かに、何か言われたの?」
香さんはそんな年齢の事を気にするようなタイプじゃないし、
誰かに言われないとそんなこと考えるとは思えない。
考えていたら、あの 年齢不詳の冴羽さんと一緒に
いられるわけないし。

「唯香ちゃんにね、年の差感じたことないんですか?って言われて
ちょっと、ね」
頬杖をついたままちょっとはにかみながらそういう香さんに、
微笑ましくて心の中が暖かくなる。

前なら絶対冴羽さんとの関係を聞かれたら真っ赤になって両手を
ぶんぶんと振り回して否定してたのに、ね。
みんなにからかわれれば今でも必死になって否定してるけど、
こうして私と二人の時は、恥ずかしそうに赤い顔をしながらも、
ノロケのようにしか聞こえない二人の話をしてくれる。

それは女の子同士のおしゃべりそのもので、日常をあまり知らないで
育ったわたしにとっては、うれしいぬくもりのある日常の一部。

「私とファルコンの間に、年の差なんて無粋なものはないわよ♪」
「たはは、お熱い事で」
「香さんは年の差、感じた事あるの?」
「うーん、リョウって意外にあんなだけどいろいろと博識だし、
なんだかんだ言っても情報収集は怠ってないみたいだし・・・
話の幅広いんだよねぇ。だから、あたしもあんまり感じないかなぁ」
それ、冴羽さんを誉めてるとしか聞こえないんだけど(笑)

「じゃあ、唯香ちゃんに何言われても気にしなくていいんじゃない?」
「そうなんだけど、年の差がある分あたしの知らない過去があるって
事でしょ?昔のリョウのこと、知らないなぁって思っちゃって。
あいつあんまり過去の事しゃべらないから…」

香さんが冴羽さんの過去が気になるのもわかるけど、
冴羽さんが香さんに昔の話をしないのも、わかる。
だから今回は冴羽さんのフォローしてあげようかな。

「”過去”は確かにその人を築き上げたものだけど、
わたし達がお互いのパートナーと進んでいくのは”今”と ”未来”じゃない?」
「そっか、そうよね!”過去”より”今”と”未来”よね!」
「そうそう」
花が咲いたような笑顔。
やっぱり、香さんには明るい笑顔の方が似合うわね。

「おっじょうさーーーん!ボキとアフタヌーンティーでも
いかがですかぁ!ついでに夜明けのコーヒーも一緒に♪
もちろん、今ならもっこりつき♪」
そこに、キャッツの前を走って通りすぎる男。
タイミングが悪いというかなんというか・・・

「・・・あの、香さん?」
目の前で拳を握り締めて震えている香さんにおそるおそる
声を掛けてみる。
「・・・やっぱりあいつには”過去”より刹那的な”今”が大事みたいね。
コーヒーごちそう様!いってくる!!」
言うがはやいか、ハンマーを掴んで店を飛び出していった香さん。

「はは、いってらっしゃい」
見送りの言葉も、聞こえてないでしょうね。

ドボゴー−−−−ンッ!!
遠くで聞こえる破壊音。
冴羽さんがどうなったかは想像しなくてもわかるわね。
ハンマーの音さえ、今のわたしの日常。
穏やかな日常っていうには激しすぎる音だけど(笑)

ガラス越しに冴羽さんを引きずりながら
手を振ってアパートへ帰っていく香さんに、
手を振り返しながら買い物に行ったファルコンの事を
待つ。

そんな毎日、これを幸せというのかな?


fin

<あとがき>
篠原○子さん、結婚されましたよね。
24歳差はすごいなぁと。
一回りは離れていないけど、うちも年の差カップルなので、
よく話あうの?って聞かれます。
パートナーはたまに犯罪者って言われるし(^^;)
一緒にいても居心地よければ年の差って関係ないんです。
たまに昔のテレビとか話とか知らない事とかあるけど、
教えてもらえればわかるし、二人で生きてるのは今ですから(^^)


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