a recipe



「リョウ、今日の夕飯なにがいい?」
リビングで何をするわけでもなくねころんでいた俺のところに、
香が顔を出した。
「そうだなぁ・・・鍋なんかいいんじゃないか?寒いし」
「じゃ、それで決まり!あ、でも具は期待しないでよ。
家計苦しんだから」
”カニ”と言おうとした俺にしっかり釘をさしつつ、
台所に入っていく香。
香がここに来てからというもの、俺自身進んで台所に
入ったことがない。
入らなくなって、一体どれくらいたったろう・・・


そんなことを考えていると、いつのまにか
リビングには鍋と素材が並べられ、鍋の準備は万端になっていた。
メニューは、チゲ鍋。辛さはどちらかというと香好みで、抑え目になっている。


「いただきまーす」
ぐつぐつと煮える鍋に箸を入れ、具の取り合いをしながら
腹を満たしていく。


俺が一人でここに住んでいた頃、(というより、ただ寝起きしているだけ
に等しかったが)鍋など食ったためしがなかった。
死なない程度には飯は食べていたが、鍋を食べる気など少しも
起こらなかった。
鍋は複数で食べるものだという認識は昔も今も俺の中にある。
だから、鍋を食べることが香と二人でいるとあらためて実感できる気がしていた。
そのせいか、俺は冬になるとついつい鍋を香にリクエストしている気がする。
冬の寒さのせいで、人恋しくなっているのか・・・


「・・・なんかさ、最近鍋多いかもね」
湯気の向こう側の香が、突然箸を置いてそんなことを言い出した。
「なんだ?鍋あきたのか?」
俺自身鍋が多いことを考えていたせいか、
言葉がついついあせってしまう。
「ううん、むしろ逆かも。こうやって鍋が食べられるのが幸せだなぁって」
湯気のせいで香の表情が見えないせいもあり、いつもわかりやすい香の
言葉の意味が汲み取れず、俺はだまってしまった。
「アニキが刑事やってた頃は、食事を作って待ってても遅くまで帰って
こないことがよくあったから、あんまり鍋って好きじゃなかった。
だって、やっぱり鍋はだれか湯気の向こうにいて、わいわい食べたかったから」
「・・・で今はそれがかなってるって?」
俺は、同じ気持ちをかかえていた香がいとおしかった。
「・・・また鍋やろうね」
「ああ」
湯気の向こう側で真っ赤になりながらもめずらしく素直にいう
香に俺もめずらしく素直に返す。
「俺も、おまえと鍋するの嫌いじゃない。また鍋頼むわ」


鍋の際に絶対必要なもの。
湯気の向こうにいるいとしい君。

fin

題名なんかいいのないかなぁって
思いながらもいいのが思いつかずこんなになってしまいました・・・(;;)


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