海の向こう




まだ朝が来る気配もみせない暗い海辺を、香は一人で歩いていた。
いつも家計が火の車である冴羽商事のことであるから、もちろん
リゾートで来たわけではない。
社長令嬢のボディーガードという、お決まりの依頼内容。
もちろん、リョウにとっては理想の依頼。
いつも通り依頼者にちょっかいを出し、あたしの防戦もむなしく
依頼者がリョウに恋心を抱いたのが手に取るようにわかった。
そんなこといつものことと思いながらも寝付けず、普段見れない
きれいな朝日を見るのもいいかもと、自分を半ば騙しながらこうして
浜辺に出てきたのだった。
いっこうに朝日も顔を出さない。
見えるのは暗い海のみ。
「ちょっと薄着だったかなぁ。寒い・・・」
ふと傍らにぬくもりを求めた自分がいて、はかない望みにおかしくなり、
自嘲的な笑みが浮かぶ。


「なーに、一人で笑ってんだー。気持ちわりぃな」
「・・・リョウっ?!・・・なんでここにいるの?」
「あん?・・・べぇつに〜たまたま通りかかっただけぇ」
目を合わせず言う言葉には説得力がなく、どう考えてもこの男が起きている
時間ではない。
飲んで徹夜している時以外。
心配してきてくれたと考えるのはあたしの自惚れだろうか。
ついつい口元がほころぶ。
「なんだよ、お前また思い出し笑いかぁ?」


その時、海に光が射してきた。辺り一面が光を得て、輝きだす。
「うわぁー、きれい!!!ね、リョウ」
「まぁ、な」
光はリョウの精悍な顔立ちをなお引き立たせていて、ついつい見惚れて
しまった。
「なんだ?俺の顔になんかついてるか?」
「う、ううんっ!!・・・ね、ねぇリョウ、昔の人って、あの海の向こうに
理想郷があるって思ってたんだよね。でも、人によって理想郷って違うと
思わない?私にとってはやっぱり人がケンカもなく仲良く暮らせるところ
かな?」
見つめてたのを悟られないように、そんな話題を振る。
「おいおい、それがシティーハンターのパートナーの言葉かー?
ケンカもないとこじゃ、いざこざが飯の種の俺達は商売あがったりだぜ?」
「あ、そうか。じゃあ、リョウにとっての理想郷は?」
「そうだな・・・素直になれる国かな?」
まさかまともに答えてくれると思ってなかったから、その答えの真意は
測りかねた。
見上げた先のリョウの視線には、優しい光が灯っていた。
少し切なげな・・・

「ほらぁ、やっぱり人間欲望のままに生きるのが理想でしょーーー。
ナンパの成功率も上がるだろうしぃ」
一瞬にして変わるリョウの表情。いつものにやけた表情。
「あーそうでしょうとも、理想郷に行っても私の仕事は
変わらないのよねぇ」
「わー、まてっ!!」
ドボゴーンッ!!


いつも通りのパターンで、ハンマーが炸裂し、朝は明けた。
そして、今日もリョウにとっての理想郷は海の向こうよりも遠いのである。

fin

初めてCHのキャラクターを使って書きました。
今までオリジナルは書いたことあったんですけど、
それもめったに書ききったことないです。(^^;)
私の中にいるリョウは、本当に本音を香ちゃんに
言ってくれません・・・私は香ちゃんの幸せそうな
顔を見たいのに。ということで、今度の私の目標は
甘〜い話だっ!!!
イメージを壊れちゃった人、ごめんなさい。
でも怒らないでね?


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