言葉にできないから



もうすぐ、香の誕生日だ。
この時期になると、どうしても悩んじまう。
いくら一緒にいるだけでいいと言っても、
やっぱり何かプレゼントをやりたいと思うのが心情だろう。

それでなくても、俺の誕生日には
香はなんだかんだと言っては何かしら
用意してくれるしな〜

なんだ、その、家計をやりくりしながら
悩んで選んでくれるあいつの気持ちに
お返ししないっていうのもどうなんだ?
などと思っちまう訳で・・・

だぁ〜!!
俺は誰に言い訳してるんだ?!

そして今、こうしてナンパをしつつ
香へのプレゼントを物色してるが、
これだ!!つうもんがなかなか見つからない。

この間のホワイトデーは、
つい奮発しちまって実は財布の中身は寒いときてる。

悩みを含んだ溜息が、誰にも気付かれない位
かすかに口から零れそうになった時、
背後に近づいてきた気配が一つ。

「さ・え・ば・さん♪」
最近俺達の周りをウロチョロと
調べ回っているヤツラの一人、唯香だ。
「あ〜ん?ガキはナンパの邪魔だ!」
「ど〜せ、ナンパなんてポーズだけの癖に」

シッシッと手で追っ払う素振りと威嚇の言葉を投げつけたが、全く効果なし。
「それよりも、冴羽さんに決めて欲しい事があって♪」
手には原稿らしき束を持ってニコニコとそんな事を言う唯香が、
ロクな話題を持ってきている訳もない。

こいつの笑顔は、冴子の極上の笑み
同様俺にとって厄介事しか運んでこない。

「リョウちゃん忙しくてぇ〜。
だからお前なんかかまってらんないの。んじゃあな〜」
「待ってよ!決めてもらわないと困るの!」
むんずとコートの端をつかまれ、逃げる事は
阻まれた。

・・・仕方ねぇ、うやむやに答えてトンズラするか。
「ったくなんだよ。忙しいんだから、邪魔すんなよな」
「この2パターンから選んでくれれば、解放してあげるから。ね?」
「ったくなんで俺が」

ブツブツと文句を言い続ける俺の目の前に、
原稿の束が突きつけられた。
「はい!どっちがより冴羽さんと香さんらしいか決めてねv」
「俺ららしいって・・・(汗)」
嫌な予感がしつつ、渡された原稿に目を通した。


<<パターン1>>
毎年この日彼女が目覚めると、
ベッドサイドには大きな薔薇の花束が置かれている。
普段想いをあまり言葉にしてくれないが、
彼がこの日ばかりはその想いをメッセージ込めてくれる事が、
彼女にとっては何よりも嬉しい。
そして今年のメッセージは・・・
『Happy Birthday.
今年もこうしてお前と過ごせる事が何よりも嬉しい。
 これからも共に歩んでゆきたいと思う事は、過ぎた願いだろうか。 』

<<パターン2>>
毎年この日彼女が目覚めると
ベッドサイドには大きな薔薇の花束が置かれている。
普段想いをあまり言葉にしてくれないが、
彼がこの日ばかりはその想いをメッセージ込めてくれる事が、、
彼女にとっては何よりも嬉しい。
そして今年のメッセージは・・・
『Happy Birthday.
 お前がここに生まれ、こうして出会えた奇跡に、
 どこにいるかわからない神に感謝する。』


・・・・・・・


思考が、しばし止まった。
そして、再起動。

「な、な、ななんじゃこりゃ〜!!!?」
「え?新作小説のパートナーの誕生日を祝うワンシーンだけど?」
「ゆ、唯香、お前まさかまた俺らをモデルにした話書こうと・・・・」
「え、だってエピソードは貯まってきたし、
 そろそろ書き始めてみようかなぁって♪」
にこにこと笑いかける唯香の笑みが、悪魔の笑みにしか見えない。

「じょーだんじゃねぇ!!」
「ちょ、ちょっと、どっちか選んでよ!ねぇ、冴羽さん!」

三十六計逃げるにしかず!
つきあってられっか!!
「どっちも違いすぎて、選べるか!」
「選んでってばぁー!!」
唯香の叫び声が背後から追ってきていたが、
無視してかまわず逃げ出す。


・・・それにしても、どーして女っていうのは
言葉を欲しがるかねぇ。
んじゃ、誕生日プレゼントも言葉が一番ってか?


そして、一応考えてみる。
・・・・・・
チッ、チッ、チッ、ポーン♪

がぁ〜!!
俺には、無理だぁあ!

突然立ち止まって、頭を抱えてうずくまった俺を、
隣を歩いていたOL風のもっこりちゃんが、
冷たい視線と共に迂回してゆく。

無理、ぜーったい無理。
しかも、さっきの唯香の原稿が頭に残っちまって、
考える事が激甘。
隣の天使じゃあるまいし、俺には無理だって!

!!・・・そうか!
ここまで考えて、俺の頭の方程式は単純な答えを
弾き出した。
人、これを逃げとも言うが、皆まで言うな。

そう、そうだよな。言葉が無理なら、答えは一つ。
行動あるのみ。
なんだ、そうか俺としたことが、そんな単純な事を
すっかり忘れていた。

俺は、そこまで考えが固まったところで足取りも軽く、
まずはさっきから目をつけていたオルゴール付きの
ジュエリーボックスを買いに向かった。

そしてプレゼントはもう一つ。
何かなんて聞くなよ。
んなもん、野暮だから、な。


fin

遅くなりましたが、カオリンお誕生日おめでとう!!
えっと、なぜかカオリンのBDなのに、
カオリン出てきてない(汗)
でも、二人でいられれば幸せなBDという事でv
それにしてもなんかリョウ吹っ切ってるなぁ(−−)
春だから・・・という事でv(逃亡っ)


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