HANA2〜越えていない二人の場合〜
いつもと同じ、変わらぬ日常。
そして俺は、いつもと同じように
リビングのソファで愛読書を愛でていた。
香はというと、これまたいつもと同じように
伝言板に依頼をチェックしに行っている。
この時間になっても戻ってこないという事は
おそらく、依頼もいつもと同じようにないんだろうが。
ま、平和なことはいい事だ。
窓から見えるビルとビルの隙間から
切り取られたように見える空が、
色づきはじめている。
もうすぐキャッツでおしゃべりをして、
夕飯を作りに香が帰ってくる時間だ。
元気な声と共に、パタパタと元気な足音で
アパートの玄関の扉を開け、夕飯の食材を抱えて
元気な声で入ってくるはずだ。
いつの間にか、愛読書よりも意識は
これから帰ってくるパートナーに向かっている。
ったく、いつから俺は、こんなにあいつの事で
思考が占められるようになったんだか。
オチたもんだと思いながらも、その感情を
表面では嫌がりながら心の底で嬉しく思ってしまう俺は、
もう末期な気がする。
「ただいまぁ・・・」
パ、タン。
予想に反して、小さな声と、こっそりと玄関の扉が
開けられる音が俺の耳に聞こえてきた。
音がしないようにする様は、香らしくない。
まるで、俺が夜遊びして帰ってきた時みたいじゃねぇか。
あまりにらしくなくて、俺はソファに愛読書を
投げ捨てると階下に降りていった。
「あ・・・リョウ!?」
「んだぁ?それは」
抜き足差し足で自分の部屋に入ろうとしていた香の
両手には、抱えきれないほどの真っ赤な薔薇の花束。
「え!?えっとこれは・・・」
非常に困った表情の香が、視線を泳がせている。
大方、どこぞの男からのプレゼントだろう。
しかも、香への想いを募らせて、
真剣な気持ちで臨んで香に差し出した花束なんだろう。
だから香も突っ返す事も出来ず、
受け取ってここに持ってきた。
途中で誰かにやってしまうなんて事も、情にもろい
香にはできないことだ。
「どこかの花屋のおばちゃんが、痛んだ花くれたのかぁ?」
理由をまだ考えあぐねいている香に、助け舟を出してやる。
「え!?あ、そうそう!花屋さんのおばさんがくれたの。
痛んだヤツだからって」
バーカ、痛んだ花がそんなに大量にあったら
花屋は潰れちまうって。
芳醇な薔薇の香りに、少々胸焼けがする。
あまりにストレートな香への、花を渡したヤツの
気持ちのように思えて。
・・・それでも、ここに戻ってきてくれた事が香の
答えのような気がして、安堵している俺がいる。
認めるのもシャクだが・・・な。
「じゃ、これ生けたら夕飯の支度するからね」
「香ぃ・・・」
「ん?なに?」
ぷに。
振り返った香の鼻を、人差し指で押し上げる。
かわいらしいブタの出来上がり。
「!!ちょっと、なにすんのよ!」
「べぇつにぃー?」
「もうっ!訳わかんない」
バタン!
真っ赤になった香に腕を振り払われ、
扉は勢い良く目の前で閉められた。
こんな時のビックリした香の表情は、
そいつは見た事ないんだよな。
会った事もないそいつへの変な優越感に満足しながら、
俺はまたリビングに戻っていった。
しょうがねぇ、これで香があの花束を部屋に置く事、
チャラにしてやるか。
くるくる変わる香の表情が、俺の毎日を
彩ってくれる花々だなんて言ったら、
あいつはまたどんな表情見せてくれるんだろうな?
ま、んなクサイセリフは絶対口には出せねぇけど、な。
fin
愛♪さんのリクのHANA別バージョンです(^^)
HANA→鼻のアイディアを下さったAさん、ありがとうございますv
そしてHANA別バージョンを某チャットルームにて
希望して下さったBさんとNさん、ありがとうございましたv
あの時、お話してた話の方向とは違っちゃいましたが(苦笑)
どうも一線越えてない場合にリョウに何を口走らせるか?
ってとこで悩んちゃって、こんな風になりました(笑)
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