背徳の夢の代償
夢を見た。
カオリを抱く夢を見た。
それは、初恋の君を抱く甘美な夢だった・・・
目が覚めた時、今の今まで体感していた事をすんなりと
夢だったと理解した。
夢は、それ程リアリティーがあるものではなく、
順序だてられた物事の流れなどなく、突然カオリと
そういう事になっていた。
全体的に霞みがかった視界も、現実味が欠けていた。
それなのに・・・いやそれだからこそ、夢の余韻は続いていた。
自室の白い壁を、ベッドから半身を起こしながら眺めていた。
隣には、愛するカズエが静かな寝息をたてている。
俺が眠りにつく時にはまだ家にさえ居なかったのだから、
夜中に帰ってきて先ほど眠ったばかりなのだろう。
深い眠りへと向かっている愛しき人は、一向に起きる気配はない。
そんな安心しきった寝顔を眺めていると、申し訳なさと同時に
先程の夢の、背徳の香りが増した。
これはマズい。
この背徳の香り。
元来、今の生活に落ち着く前はこの香りのする恋愛を好んでいた。
もちろん、今の生活に文句はない。
壊す気もない。・・・壊したくない。それは本音だ。
ただ今日の夢は、思った以上に引きずりそうだった。
こんな状態のままで、夢の登場人物が目の前に現れたら、
多分視線に今日の夢の余韻を含んでしまうだろう。
確信めいたものがあった。
空はそろそろ白み始めていた。
もう俺に、今夜の眠りは訪れそうになかった。
そんな視線でカオリを見ようものなら、
リョウに視線で殺されるだろう。
いや、あの357マグナムで実際に殺されるかもしれない。
あの、態度では決して見せないが、人一倍嫉妬深いあいつに。
そうされない為にも、俺は頭を冷やす為に仕事モードに
頭を切り替え、書斎へと向かった。
◇◇◇
頭を冷やす為に仕事モードに入ったがいいが、
途中で資料が足りない事がわかり、太陽が高くなるのを待って
俺は本屋へ向かう為にアルタの前を歩いていた。
あいかわらず、すごい人だ。
まともにまっすぐ歩けず、人を縫うように歩いていると
聞きなれた声が斜め前から聞こえた。
「ちょっとっ!待ってってば!リョウっ!」
それは、せめて今日一日は自分からは会わないようにしようと
心に決めていた二人だった。
俺と同じ方向に向かっている為、視線がかち合うことはない。
自然と、彼女の背中を追ってしまう。
夢の中のカオリが、一瞬その背中とダブった。
い、いかん。
「きゃっ!ちょっと、リョウなんで急に立ち止まるのよ!」
「・・・」
頭の中の夢の余韻を振り払うように軽く頭を振っていると、
数メートル先からそんな可愛らしいクレームが聞こえてくる。
立ち止まったリョウの腕が、伸びをするようにサイドに伸ばされた。
そして、ぐいっとカオリを抱き寄せた。
それはスローモーションのように、俺には見えた。
「////リ、リョウ」
顔が見えなくても、カオリの顔がトマトのように完熟しているだろう事は
安易に予想がつく。
良かったね、カオリ。
そして、俺の胸には古傷が痛むような、鈍い痛み。
背徳の夢の代償として突きつけられたもの。
それは、気付かない振りをしていた未練の欠片。
欠片は、いつか溶けるのだろうか。
人の波を逆らい、俺は愛するカズエの待つ家へと向かった。
fin
<あとがき>
うちでは珍しいシリアスミックです。
ミックはやっぱりカオリンを・・・っていうのも捨てがたく、
でもそれだとカズエさんがかわいそう(><)っていうのが
私の本音でして、未練の欠片は本当に欠片であって、
ミックはカズエを大事にしてるはず!と悶えながら
書きました。(すみません!やっぱりミックのほんとの気持ちの
わからないよぉ・・・(T_T))
でも朝の満員電車の中でこの話が浮かんだあたしって・・・(−−;)
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