あなたに贈るもの



ふんふんふん♪
テレビで流れていたメロディーを、自然と口ずさんでいた。
曲名も知らないけどなんとなく、今の浮き立った気持ちと合ってる気がする。

この軽やかな気持ちの訳は、今キッチン中に広がっている甘いチョコの香り。
明日は2月14日。
海外では、感謝の気持ちが伝わればプレゼントは何でもいいみたいだけど、
日本にいるかぎりいつもこの時期にお店に所狭しと並べられる
可愛らしいチョコを見てしまうと、チョコプラスαのプレゼントが
一番素敵に見えてしまう。

そして、今あたしはトリュフ作りの真っ只中。
温めた生クリームに、ちょっと奮発して買ったクーベンチュール
チョコレートを入れて溶かしていると、チョコをきざんでいる時よりも、
香りが強くなった気がする。

溶けたのを見計らって、最後に入れるのはブランデー。
最初は大酒飲みのあいつに、せめてチョコ位は禁酒って思って
買ってこなかったんだけど、帰ってきてからある雑誌の記事を見て
やっぱり加えようと、慌ててお酒の入れてある戸棚の奥から見つけてきた一本。

あまりにもガラじゃないとも思ったんだけど、
心持ちたっぷりとブランデーを加える。
味が壊れない程度に、でもたっぷり。
キッチンに、甘いチョコの香りとブランデーの大人の香りが広がる。

「甘そうな匂いだなぁ。香ぃ飯まだかぁ〜」
そう言いながらのそのそとキッチンに入ってきたのは、
トリュフをプレゼントする相手。

「ちょっ、ちょっと!夕飯はまだだから出ててよ!」
作ってる最中を見られるのはなんか気恥ずかしくて、
慌てて追い出してしまおうとリョウの背中を押した。
「へぇ、へぇ」

大人しく出ていこうとしていたリョウだったけど、テーブルに視線を止めて
急に立ち止まったせいで、あたしはリョウの背中に鼻をぶつけた。

「ぶっ!ちょっとぉ、急に止まらないでよぉ」
「おい、このコニャック使っちまったのか?!」
「え?」
一瞬なんの事だかわからなくてきょとんとしていると、
「コニャック。これだよ、これ」
リョウが持ち上げたのはさっき戸棚から取り出してきたブランデー。

「え!もしかして、使っちゃ・・・マズかった?」
恐る恐る聞いてみると、開けちまったかぁという言葉と共に大きなため息。

どうもコニャックの中でも希少価値が高い代物で、
飲むの楽しみにしてたらしい。

「・・・ごめん、ね?」
「ま、使っちまたもんはしょうがねぇけどさぁ・・・チョコに入れたにしては
使った量多くねぇ?」

「だって・・・」
「だって?」
「///何でもない!いいじゃない。ちょっと多めに入れたかったの!
「ふ〜んあっそう。ま、いいけどな。メシ早くしてくれよな」

ブランデーに込めた想いは、気恥ずかしくて、言えない。
だから、リョウがあっさりと引き下がってくれてほっとしていたら、
キッチンの入り口で思い立ったように立ち止まると、再び振り返ったリョウは
何か企んだ表情。

「ところでさぁ、香ぃ」
「な、なに?」
こんな表情をされると、ついつい身構えちゃう。
満面の笑みは危険信号。
「大事なコニャック使っちまった罰どっすっかなぁ」
「ば、罰?」

でも使っちゃったのはあたしだし、甘んじて罰を受けよう!うん。
覚悟を決めて再びあたしの前に戻ってきたリョウを見上げると、
乱暴にくしゃくしゃと髪をかき混ぜられた。

そして降ってきた言葉は、罰には聞こえない言葉。
「罰として、今晩はこのコニャック飲むの付き合ってもらうからな」
「え・・・?」
しばらく女性の依頼しか受けない、とか男の依頼はどんな依頼でも
受けない、とかを予想してたあたしには青天の霹靂。

「そんなんで、いいの?」
「せっかくだから、コニャックの香りがとんじまう前に楽しまねぇとな」
ますます強く髪をかき混ぜられて、見上げる事もできなくて
リョウの表情は見えないけど、もしかして・・・照れてる?
もしかして、あたしがブランデー入れた意味も、気付いてる?

「つまみも、作ってくれよな」
「うん。じゃ急いで夕飯にするから」
「おぅ」

ブランデーの別名Eau de vie。
あなたに贈るもの、それは命の水。
たくさんの命の水を、あなたに。
fin

バレンタインですね♪
この時期は普段食べれないチョコもあって、
チョコ好きには嬉しい限りです(*^^*)
命の水は、お酒全般を指す場合もあるみたいですが、
チョコに入れるならブランデーかなぁと思いまして。
二人の甘い夜は、ご想像にお任せいたします(笑)


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