ドッペルゲンガー・パニック3




「じゃあ、理恵子ちゃんと柘植君は幼馴染みなのね?」
カウンターの中央には、あたしと理恵子ちゃん。
そして、挟むように両側ではそっぽを向くように
ふてくされるリョウと柘植君がそれぞれ座っている。

リョウがキャッツに連れてきた柳理恵子ちゃんは
見た目通りの20歳の女子大生。
「ええ、だからアルタ前で弘ちゃんが
女の人と歩いてるの見かけて、どこの誰だかわからない女の人の
毒牙になんてかかったら大変って思っちゃって。
ここまで追ってきちゃったんです。あっ!すみませんっ。香さんが
そんな感じに見えたって訳じゃないんですけど・・・」
「あはは、気にしないで。見知らぬ人と歩いてたら、心配になるわよね」

「そうなんですっ。姉代わりとしては、どうしてもほっとけなくて」
「・・・誰が誰の弟だってぇの。それに俺はガキかってぇんだ」
握りこぶしを握りしめる理恵子ちゃんと、その背後でぼそりと
そんな言葉をはきながら面白くなさそうにしている柘植君。

・・・へぇ、ふぅん。
「なんだ、二人して素直じゃないなぁ」
「「え?」」
二人の声が、ハモる。

「だって、柘植君は理恵子ちゃんの事、意識してるからあたしに声かけて
気にかけてほしかったんじゃないの?弟なんて言われて少し拗ねてた
んじゃないの?」
「ば!んなわけねぇじゃん。誰がそんな理由で香ちゃんに声かけるかよ。
俺は香ちゃんが可愛いから声かけたんだって」
言い訳する柘植君の表情は、焦りすぎてて逆に図星である事が
しっかり書かれている。

「まぁまぁ素直になりなって。それに、理恵子ちゃんも気にはなってるけど
弟なんて、思ってないでしょ?それは違う意味ででしょ?
年齢なんて、そんな障害にならないって。ね?」
「/////」
「ということでっ、二人でどこかデートでも行ってきたら?」
伝えたい事はしっかり言った後、強引に二人をキャッツの外に押し出す。

ガラス越しに、戸惑ったように真っ赤な顔をしばらく見合わせていた
二人だったが、その後おずおずと二人で同じ方向に歩き出すのが
見えた。
柘植君が差し出した手を、理恵子ちゃんが握って。

「やっぱり、あんな風に素直なほうが一番よね」
それを見届けたあたしは、ほっと一息つきながら、
手元の珈琲カップに口をつけたのだった。

◇◇◇

「良かったね、あの二人」
あたしは先程の初々しい二人を思い出し、
笑みを浮かべた。
「なんだぁ、思い出し笑いかぁ?香ちゃんや〜らし」
「そ、そんなんじゃないってばっ。・・・ただ、
リョウにそっくりな彼には幸せな高校生活送って
欲しいなぁって思っただけよ」

リョウ本人が過ごせなかった平凡だけど
穏やかな毎日を、あのリョウにそっくりな彼には
是非送ってほしいって強く思ったのだ。
そこまでは、口には出さなかったけど。それなのに・・・
「ばぁか、んなもん俺らが幸せになんねぇと意味ねぇじゃん。
どんなにそっくりなヤツが幸せになってもな。ま、少しぐらいは
あいつらの幸せな前途を祈ってやってもいいがな」

頭をくしゃりと撫でたリョウの手が温かく、
その言葉が嬉しくて、あたしは一瞬歩みを止めた。
あたしとリョウ二人で幸せになる事を望んだような言葉が、
嬉しかった。

リョウの背中が、少し先を行く。
「・・・そぉれに、俺にはもっと幸せになるプランがあるのだっ。
世界中のもっこりちゃんと出会うってな」
振り返ったリョウの表情がへらりと崩れる。
「まぁったく、あんたって人はぁ〜!」
ハンマーを出そうと思ったけど、先程の言葉に免じて
出さずにおいてあげた。

少し先を行く、いつまでも捕まえていたい背中に
小走りで追いつき、その腕にしっかりと自分の腕をからませ
あたし達はあたし達の帰るべき場所へと歩いて行った。



◇◇◇



その頃キャッツでは、美樹が皿を拭いている海坊主相手に先程から
口に出したかった想いを呟いていた。
「それにしても香さん、てっきり恋愛のその手の事には
少し疎いのかと思ってたけど、他人の事はよくわかるのね」
「・・・」

「でもそれだったら、冴羽さんの行動の意味もわかってあげれば
いいのに。男の子と連れだっていた香さんが心配で、
理恵子ちゃんをダシにしてここに来た彼の気持ちに。
だって、そうじゃなかったらここにナンパした子を
連れてくるなんてしないわよね、不自然すぎるわ。
ね?ファルコンもそう思うでしょ?」
「・・・まぁ、そういうもんなんだろう。それに、ヤツの行動は
本当に分かりにくい天の邪鬼だしな」
「そうね♪」
美樹が寄りかかった際、海坊主がゆでダコになったのは
いつもの風景であった。

「それにしても、そっくりなあの二人、女性の趣味も似てたみたいね♪
理恵子さん、香さんにどことなく似てたから」
くすりとほほ笑むキャッツの女主人の脳裏には、香と理恵子、そして
それぞれの素直ではない彼氏の顔が浮かんでいた。


春の風が、それぞれのカップルを優しく包んでいった。



FIN

少しでも楽しんでいただけてたら、嬉しいですv

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