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この依頼は、始めから気に食わなかった。
まず、男の依頼である事が気に食わなかった。
これはシティーハンターのポリシーに反する。
そう言ったら、香に即効『シティーハンターのじゃなくて、あんたのでしょ!』
と訂正されたが。
しかも、依頼内容がその男のボディーガードときたもんだ。
財閥の御曹司だがなんだか知らねぇが、男だったら
自分でどうにかしようという気持ちを欠片でも持ってるべきだ。
しかもしかも、依頼人の性格が気に食わねぇ。
依頼人の福澤のやろう、怯えた表情を隠しもせず
それを理由に香に、べたべたと触りやがる。
俺がしようものならハンマーのくせに、香も依頼人だということが
ストッパーになって困った顔止まり。
しかもしかもしかも、福澤の態度が怯えてはいるが本当に自分の身に
危険が迫ってるって体験したのか?!感じてるのか?!って
怒鳴りつけたくなるほど、のほほんとした雰囲気だ。
どうも狙われてるっていうのも、怪しいもんだ。
今の所、それらしい敵さんは現れない。
そして、それを裏付けるような今日のパーティー。
身内だけのパーティーだったら、自分が狙われているんだったら
延期にしろ延期に。
まるで香にこれ見よがしに自分の財力を誇示するだけに
やってるみたいだぜ、面白くねぇ。
だが、それでも受けざるおえなかったのはあの例の
『3ヶ月と29日ぶりの依頼なんだからねっ!!このままだとうちの家計
やばいのよっ!』という香の言葉だった。
正直あの言葉には弱い。
このところ香に内緒でたまに受ける裏の仕事もなく、
(ま、世の中平和なのはいい事だが)その状態で香の知っている口座が
底をつくということは、まさに俺達の死活問題。
俺一人ならなんとかなるが、香がいるのに
いつも以上に苦労させちまう事になるのはいただけない。
だから、今回の依頼はしぶしぶ受けたのだ。
それにしても、胡散臭ぇ。
「どうです?香さん、うちのパーティーは」
「はぁ・・・」
「ここはうちの別荘の1つでして・・・」
ジト目で横を見ると、その胡散臭ぇ依頼人福澤と、ほとほと困った顔の
着飾った香。
せっかくご一緒するパーティーのドレスだからプレゼントしましょうと、
福澤が渡した鮮やかな赤のドレスは。色の白い香の肌に良く映えるものだった。
こんな気にくわねぇヤロウでも、センスは悪くないようだ。
だが、だからといって香の腰に手を回していいわけねぇだろっ!
離れろ!
ストレートに口には出せなかったが、どうにかして香からヤツを引き離そうと
ナンパできそうなターゲットを探していると、会場の入り口から
微かな殺気を感じた。
へぇ、やっと敵さんが現れたってわけか。
それにしても、こんな時にという気もするが、仕方ねぇ。
これであっさり問題解決すれば、この依頼人ともおさらばだしな。
「香ぃー、ちょっくら行ってくる」
「あっ、リ、リョウ?」
「お、お助けください!」
あまりに弱すぎる敵に拍子抜け。
一応5,6人はいたが、どう強く見積もっても、こいつら全員素人に
毛が生えた程度。
軽い運動にもなりゃしねぇ。
「んで?お前さん達の依頼人は?正直に言ったほうが身のためだぜ」
「福澤様にやれと言われて仕方なく・・・」
「やっぱりあいつの狂言か。で、目的は?」
「じ、実は、香様を街中で見かけて見初めた福澤様がこの計画をたてまして・・・」
ちっ!あの二人をそのままにしてきたのが、迂闊だった。
福澤が最初から俺を引き離す為にこいつらを寄越したのなら、
今この瞬間に香の身が危ない。
福澤の手下の言葉を最後まで聞かずに、俺は先ほどの会場に取って返した。
だが、すでにそこに二人の姿はなかった。
警備する為、ここの見取り図は頭に入っている。
俺だって、それぐらいはマジメに仕事するんだ、いくら乗り気でなくてもな。
シケこむとなると、個室が並んだ2階の一角に絞られる。
階段を駆け上がると、案の定抵抗するような香の声が響いてきた。
その声で当たりをつけて、ドアへ駆け寄った。
「ちょ、ちょっと福澤さんっ!やめてくださいっ!
あなた狙われてる自覚あるんですか?!」
「香さん、私があなたを見初めたのです、なぜ受け入れてくれないんですか?」
「な、なに言ってるんですか?!ちょ、ちょっと!」
バタン!!
勢いよく扉をあけると、ベッドで福澤に圧し掛かられている香が目に映った。
福澤の手は、香のドレスの裾まさに捲ろうとしている瞬間だった。
赤いドレスと同じ、赤い色彩が目の前に広がる。
「香に触るなっ!!!」
扉から2、3歩で福澤のサイドまで大きなスライドで歩みよると、その勢いのまま
福澤を蹴り飛ばした。
「ぐおっ!」
「リ、リョウ!」
福澤が、部屋の端まで転がった。
「ちょ、ちょっと依頼人・・・」
「こいつは自分で使用人に狙った振りをするように命令しただけだ。
依頼人の名が聞いて呆れるぜ」
「え、狂言?」
「そういうこと。だから、行くぞ香。ここには依頼人なんていねぇからな」
「ま、待てっ!ボクは諦めないからなっ」
香を連れて出て行こうとすると、部屋の端でうめいていた福澤が
未練がましい顔で俺等を睨んできた。
「あのなぁ、正々堂々でない無理やりのアプローチは嫌われるぜぇ。なんなら、
俺が本当にボディガードを依頼しなきゃいけねぇように・・・狙ってやろうか?」
最後の言葉と共に視線で射抜いてやると、福澤の肩はがっくりと落ちた。
「いくぞ」
「う、うん・・・」
ったく、香に手を出そうとして、これだけですんでありがたいと
思って欲しいもんだぜ。
「香。お前、あんま赤い服着るなよ」
「え、・・・似合わない?」
「そうじゃねぇけど・・・」
赤は、香には着せたくない。
特に鮮やかな赤は。
その、なんだ、似合うとは正直思う。
だが鮮やかな赤は、人を興奮させる。
闘牛士が色の識別ができない牛に赤い布を使用するのも、
観客を興奮させる為。
それでなくても最近道を歩いている香を、振り返るヤツが急増している。
そんな香に人を興奮させる色なんか着せた日にゃ、福澤の馬鹿みたいなヤツが
増える事請け合いだ。
クソ、これじゃあまるで俺がヤキモチ焼いてるみてぇじゃねぇか?!
「だぁ〜!いいじゃねぇか、とりあえず着るなよっ!」
「変なリョウ・・・?」
「ほら、さっさと乗れ!」
「うん」
助手席の扉を開けて、かさ張るドレスの香を押し込み、
クーパーを発進させた。
「・・・リョウ今日はありがとう・・・嬉しかった///」
香が、助手席でほんのりと頬を染めて呟いた。
こいつは、俺が今こいつの白い首筋に赤い華を咲かせたいなんていう欲望と
戦ってるなんて、これっぽっちも思ってねぇんだろうなぁ。
これも、赤の効果、か?
fin
闘牛の牛は色に興奮するのではなくて、
ひらひらと動くものを見て興奮するらしいです。
さて、家に帰ってからもリョウの苦悩は続きそうです(笑)
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