手作りチョコの行方



「やっほぉ〜、美っ樹ちゃ〜ん!!」
「あら、冴羽さんいらっしゃい」
CAT'S EYEへ入ると、いつもかわらぬ女主人の笑顔。
「恋人達の甘〜い一日にまだ一個もチョコもらってない僕ちゃんを
 慰めて〜」
その笑顔につられ、ついついいつものように飛びつく。
”グゥアアアアン”
「まったく懲りないんだから(−−)」
当然、手に持っていたステンレスお盆にて叩き落とされた。
「くすん、くすん、だって今日ナンパも成功しないしぃ〜、
誰もチョコくれないしぃ〜美樹ちゃんからチョコ欲しいなぁって」
「あら?、香さんからまだもらってないの?」
指でのの字を書いて上目づかいで見上げると、美樹が不思議そうな
顔をこちらに向けている。
「・・・あいつがくれるわけないだろ。それに、あいつからもらっても
義理でしかないし!もらっても全然うれしくないなぁ遼ちゃん」
「ふぅ〜ん、あらそう」
「・・・それより!美樹ちゃんの心のこもったチョコ欲しいなぁ遼ちゃん」
素直じゃない俺のすべてを見透かしたような美樹の含みある笑みから視線を
はずしつつ、俺は話をそらそうとした。
「ざ〜ねんでした。今年は本命だけ用意したの、手作りをね。
 だからファルコンにだけ。ね?ファルコン(ハート)」
「////////////////」
「へ〜へ〜それはお熱いことで。んじゃ、ナンパがんばってこよぉーっと」
海坊主と美樹二人のラブラブで何度か上がった喫茶店内の温度に追い立てられる
ように、コーヒーも飲まない内に再度店を出る。
「あ、冴羽さん。大丈夫よ、心のこもったチョコもらえるから。その為に昨日
み・ん・なで作ったんだから。だから早く帰ってあげるのよ」
扉を閉めようとした瞬間、そんな美樹の言葉が追いかけてくる。
そういえば、昨日こそこそと香の奴何か紙袋持って出かけてたな。
その割には、朝会った時に俺の目を見ないようにしてたのはなんでだ?
てっきり、いつもの財政難でチョコも買えなくてあんな態度なのかと
思ってたんだが。
ま、あとで心持ちはやく家に帰るかな。
そんなことを考えながら、日課通りいつものナンパスポットへと足を向ける。


              ***

「ちぇ、やっぱり今日はカップルばっかりでナンパはムリかぁ」
結局、CAT'S EYEを出た後軽くナンパしようといつもの所に向かったが、
今日はバレンタインデー。なかなかうまくいかない。
しかも、正直俺自身ナンパに気持ちが入らないっていうのもあって、
足は自然と家へと向かっていた。


「あんれぇ〜、あれ香じゃないか」
我が家であるアパートに近づくと、ちょうどアパートの扉から
出てくる香の姿。なぜかきょろきょろと周りを見回している。
「掲示板見に行くんだったら、あんなに警戒しなくてもいいよなぁ?
どこ行くんだ?」
気になる行動に、後ろからついていくことにした。


着いたところは、バレンタインチョコ売り場。
「なんだぁ〜、義理チョコでも買うのか?だってなぁ、美樹ちゃんが
あー言ってたし・・・なぁ?」
しばらく様子を見ていると、香は悩んだ末に一つだけチョコを
買うと、いつものように掲示板へと向かっていく。
義理チョコなのに、1つだけ?訳がわからん。
その後香はそのまま依頼のない掲示板を見て
肩を落としながらいつものように帰っていく。
不可解な行動が気になり、俺もそれ以上どこかに行く気にもならず、
香がアパートに入ったのを見計らってしばらくしてから家路へついた。


              ***

「はい、これ遼に。//////・・・バレンタインだしね」
夕食も終わり、コーヒーを楽しんでる時に、香は俺の前に
箱をそっぽを向きながら差し出してきた。
それは、先ほどバレンタインチョコ売り場で買っていたチョコレート。 「これを、俺に?・・・」
「あ、だってほら、ね?会社とかに勤めてると同僚とかに
チョコあげるっていうじゃない?そ、それよ//////」
俺がだまっているのを、くれる理由をいぶかっていると感じたのか、
香はチョコをあげる理由を一生懸命照れ隠しで説明し始めた。
しかし、俺が気になったのは美樹が言っていた手作りチョコの
行方。
・・・つまりは俺は義理ということか?
じゃあ、手作りチョコは他の誰にやったんだ?
「・・・遼?」
いつの間にか顔が百面相していたらしい。
香が心配そうにのぞきこんでいた。
「あ、ああサンキュー。なぁ香・・・」
「なぁに?」
「・・・やっぱなんでもない。俺寝るわ」
「え、ちょっ、ちょっと遼。大丈夫?」
チョコなんてチョコレート会社の陰謀だし、
気にすることはないはずなんだ。それなのに、
なんなんだ、香からたかだか義理チョコを渡され、本命の
チョコの行方がわからないだけなのに、このモヤモヤは。
香にとって俺はただのパートナー。それは俺自身が
いつも言ってることじゃないか・・・


              ***

「遼、もう10時よ。起きてっ」
いつもはハンマーで起こされるのに、なぜか今日は普通に
揺り起こされた。
昨日はめずらしくあのまま寝たはずなのに、どうも
寝た気がしない。
ゆっくりと目を開けると、申し訳なさそうでそして少し頬の
赤い香の顔。
「遼、ごめんね。美樹さんから聞いてチョコ作ったの知ってたなんて
思わなくて。実はね・・・」
----ぶちん。
香から手作りチョコの行方を聞きながら、起きたばかりの俺の頭の中で
何かが切れた気がする。
『昨日の俺の沈んだ気持ちを返せ!!香の手作りチョコ返せ〜!!』
寝ぼけてたせいか、あやうく本音の叫びをあげそうになったが
それはかろうじて飲み込み、コルトパイソンに手を伸ばす。
慌てて俺の腕をひっぱり、香が静止に入った。
「りょ、遼落ちついて、ね?ミックも悪気があったわけじゃないんだから。
それに、ラッピング前のチョコをリビングに置いておいた私が悪いんだから」
事の真相はこうだ。ラッピングしようとお皿に乗せて
リビングに置いておいたチョコを、遊びにきたミックが食べてしまったのだ。
「・・・でも、あたしの作ったチョコで遼がそんな反応してくれるなんて
うれしかった・・・」
「香・・・」
「////だからね、また今日新しいチョコを作ったの。ここに置いておくから
食べてね」
香はそれだけ言うと、俺の部屋から走り出ていこうとした。
”ぐいっ”
「きゃっ!!!」
とっさに香の腕をつかみ、抱きしめた。
「サンキュー香。チョコもうれしいが、俺はこっちの方がもっとうれしい」
「遼/////」
チョコレートよりも甘い時間。
一日遅れのバレンタインデーは、いつもより素直に過ぎていった。


後日談:その後ミックが狙撃されたとかされなかったとか。合掌(―人―)


fin

キャー-----!!!甘すぎます。というか、すみませんかなり時期ずれてます。
2月に書いたままそのままだったので・・・逃走!お話書くリハビリ頑張ります〜


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