媚薬

　
「おせーなぁ、香の奴。なにしてんだぁ」
俺がテレビにもあきて見上げた時計は、１２時を回っていた。
７時頃に高校時代の友人に会ったから、勝手に夕飯を済
ませてくれと電話があって以来、なんの連絡もない。
子供じゃあるまいしとは思うが、最近俺達の周りをちょこまか
と嗅ぎ回っている輩がいるとの情報もあるし、どうもイヤな予
感がしていた。いつもなら、気にもしないで飲みに行くのだが、
どうもそんな気分にはなれなかった。
「探しに行くか・・・」
「たぁらぁいまぁー」
ジャケットを羽織ってリビングを出ようとした時、力の入ってない声と
共に、玄関が勢いよく開けられる音と、ぼそぼそとした話し声が聞
こえた。
どうも、姫のお帰りのようだ。

「おまーな、今何時だと思ってるんだぁ？」
「あぁ、リョオぉ」
　玄関で少しけだるそうに手を振る香がいた。
だが、その傍らにいたのは予想に反して女友達ではなく、男。
それも、香を抱きかかえるように支えている。
男の顔がネジが飛んだように完全にゆるんでるのもどうも、
おもしろくなかった。自然と声が不機嫌になる。
「随分とさわがしいご帰還だな」
「か、香、もしかして同居人ってこのひ、人？！女の子じゃ
ないの？！」
俺を見た途端急にあわてふためく男に、俺と同じ空気はないか
と一瞬でも勘ぐった俺がバカだった。
さっさと香を回収しちまって、寝るとしよう。
「おい、かお・・・香？」
香の目は焦点があっておらず、完全に力が抜けてしまって
床に座り込んでしまっている。
酒に弱い香が、こんなになるまで自分から飲むとは思えない。
「・・・香に、なにかしたのか？」
「め、めっそうもないっ！！！男と同棲してると知ってれば、
手を出そう・・あ、いや、その・・・もう遅いんで、
失礼しますっ！！」
這うように外に飛び出していく。
あの男の反応からすると、酒に何か混ぜて送り狼になるつもりだったん
だろう。
下心は俺も人のこと言えないが、薬で相手をどうにかしようという考え
はいただけない。
薬なしでも、香に何かしようとしている輩を許せるわけではないが・・・
「たく、今自分が高校時代と違ってどういう風に男の目に映ってるか
ちょっとは自覚しろよな・・・」
高校時代より随分女らしくなった事に気がついてないのは、本人ぐらい
なもんだろう。
「よっこいせ、っと」
「・・・リョォ」
見上げてくる香の表情は、いつもより色っぽかった。
とろんとした視線が甘く俺にまとわりついてくるように感じる。
これは媚薬のせいで、けっして本人の意思ではないとは思いつつも、
香をどうにかしてしまいたいという衝動に駆られる。
もし今までの関係を壊したら・・・
理性の留め金が外れかける。
香を抱く腕に力が入る。
華奢な身体は、俺に託されたように力無く体重を預けてきた。
視線は甘さを含んだまま俺を見つめ、俺の理性を絡め取る。
俺が最も惹かれ、最も避ける香の眼。
引き寄せられるように口づけようとしたが、そんな俺の脳裏に
槙村の顔が浮かんだ。
しかも、悲しそうな表情。
一気に、冷水を浴びせられたように背筋が伸びた。
これでは、さっきの男となんらやってることが変わらない。
「・・・リォゥ？」
自分の中の檻を出ようとしている野獣にケリをつけるべく
一度香を強く抱きしめ、一気に香の部屋まで抱きかかえていくと
視線をあわせないまま部屋に戻った。
これ以上一緒にいて、理性など保てる訳がないから。

リビングから持ってきたウィスキーをあおりつつ、
窓の外を見上げる。俺の心を突き刺すのにおあつらえ向きの
とがった三日月。
いつもの香である時でさえ、俺が香に触れることを
槙村がどう思っているのか・・・
そんなことわかりはしないが、香の意志外の俺の暴走を
あいつが喜ぶ訳ない。
俺が香を幸せにできる男になることは、来世でも難しい。
そんな男になぜ・・・・？
だが、本当は俺もわかっているのだ。こんな風に思いながらも、
槙村が俺に託した真意なんか本当は関係ないことは。
ようは、俺自身が変わるようで怖いのだ。
香を手に入れて、失った時の自分を想像すると怖いのだ。
香の幸せを願っているはずの俺が、幸せを握りつぶしてしまわないか
怖いのだ。
槙村を、理性の歯止めの理由にしているだけ。

俺達２人の気持ち次第。

今までその答えを俺自身が見つける事を避けていたのに、
もう俺を誤魔化すことさえできなくなっている。
こんな不安を、香が溶かしてくれることを願っている。
幸せにできると言えなくとも、ありのままの気持ちを香に見せる
日が近いかもしれないと、少し薄まったウィスキーを一気に飲み干した。
少し香と向き合おうとしている俺に、三日月の光は優しくなったように
思えた。

fin

なんか、妙に堅苦しくなってしまった・・・
あまーい２人にしようとしたのに、なんか
途中からリョウの独白みたい（；；）
しかも、リョウが何考えてるかわかりづらいから
書きづらいし・・・
やっぱり香ちゃんのほうが書きやすい！！
（ただ、私の文章力＆創作力がないだけなんですけど、ね）（ーー；）
すみません、精進します。ｍ（＿＿）ｍ

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