香りに誘われて




あたしは、野上唯香。
売れっ子学生小説家のあたしが
新聞記者であるミックさんに依頼している内容は、
お向かいの二人の甘い出来事レポートする事。

連続空振りの時もあるけれど、それでも
あたしにとって将来二人の話を書く際の
貴重な情報源。
彼自身もかなり美味しいキャラクターなので、
それも含めて有効な情報提供者なのよね。

今年のバレンタイン&ホワイトデーのレポートは、
なかなか満足のゆくものだったわ♪
やっぱり冴羽さんって香さん本人も気付かないような
愛情表現が多いみたいね。
さり気ない表現は格好はいいけれど、香さんが
気付いてなきゃ意味ない気がするんだけどなぁ・・・
まぁ二人らしいけど。
そうそう、レポートを読んで気になったのは、
冴羽さんが香さんに贈ったという
香水の香り。

さすがにレポートを読んでも言葉だけで香水の香りが
わかる訳もなく、あたしは香さんの所に訪れた。

「ゆ、唯香ちゃん?」
訪問するなり突然無言で近づいたあたしに
面喰っていた香さんから香ったのは、
ふんわりと柔らかい春の香り。

「・・・いい香り」
「ありがと」
残り香のパウダリーな香りも、なんとなく
懐かしい感じがする。
「ね、ね、香さん。この香水の名前教えて?」
「えっとね、確か・・・」

あたしは取材もそこそこに、冴羽アパートを後にした。
冴羽さんからのプレゼントだから、
香さんが購入できる場所をもちろん知らなかった。
もしわかっていたとしても、一人で香水を
購入しに行くのは何となく気が引けた。
だから、まず向かったのは冴子お姉ちゃんの
ところ。

「おじゃましまーす」
「ちょっと、急にどうしたの?また家出してきたんじゃ
ないでしょうね。あ、今ネタになるような情報ないわよ。
それじゃなくても、情報漏洩には上もピリピリしてるんだから」
「違うから、安心してってば。冴子お姉ちゃん、香水のコレクション
見せて?」
全く、かわいい妹の事をなんだと思ってるのかしら。
少々冴子お姉ちゃんの態度に傷付きながら、
今回の訪問目的を告げる。

「急に香水に興味を持ち始めたなんて、どうしたの?
春らしいお話かしら♪」
「もうっ、違うの。香さんがつけてた香水が気になったから、
まずは冴子お姉ちゃんのところで確認してから
本当に気に入ったらお店探してみようかと思って」
「あら、そうなの。残念。って、私の所で確認してからって所が
あなたらしいわね。ま、いいわこっちの棚よ」
冴子お姉ちゃんに香水の並んだ棚に案内され、
あたしは香水を探し始めた。

でも、結局香さんに教えてもらった香水は、見つけられなかった。
「なかった?私もそんなにコレクターって訳じゃないから。
なんて香水なの?」
あたしが香水を探している間、ゆったりとソファで紅茶を飲んでいた
冴子お姉ちゃんに香水名を告げると、
あら、それはもう購入できないと思うわよと即答された。

「え〜なんで?」
「その香水、期間限定でしか販売しないのよ。だから、もう
この時期にはないわね。しかも今年で確か廃番よ」
「そんなぁ。気に入ったのにぃ」
手に入らないとわかった途端、より欲しくなるのは
どうしてだろう・・・その辺り、今度話に使えるかも
などと自己分析しながらも、肩を落とす。

「あと気になってたんだけど、唯香もしかしてあなた
香さんがつけていた香水の香りを気に入ったの?」
「え、そうだけど・・・?」
「じゃああなたが好きなその香りは、香さんが纏った時の
その香水の香りであって、あなたがつけても同じにはならないわよ。
香水ってその人の体臭と混ざり合った際に変わるものだから」

残念だけど、今回はあきらめなさい。いつかあなたに合った
香水見つかるわよ、と慰めの言葉と共に
あたしの分の紅茶が出てきた。

「今度は気になった香水に出会ったら、纏ってみて香りの変化を
試してみなさいね」
「うん」
紅茶を飲みながら、自分の香水が見つかるまでは
しばらく冴羽アパートに通おうと心に決めたのだった。
お気に入りの香りと香さんがセットだなんて、
小説家としては願ったりじゃないとポジティブに
考えながら。


FIN
今さらとは思いながらも
せっかく書きかけていたので、仕上げてしまいました(^^;)>
少しでも楽しんでいただければ幸いです♪


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