おとぼけサンタのプレゼント



「う゛〜最悪。ごほっごほっごほっ!」
呟いた言葉でさえ、喉に痛みと共に
咳が込み上げてきて止まらない。
内側から、熱を発しているような身体のダルさ。

リョウは、今ごろみんなとクリスマスパーティーかぁ・・・
声を出す事さえ苦痛になってしまって、
香は布団の中で溜息と共に心の中で呟いた。

今日は、香も毎年恒例のキャッツでのクリスマスパーティーに
参加しているはずだった。

それなのに、この風邪。この熱。
原因は、先日の依頼。
依頼人をしつこいストーカーからガードする仕事だった。

依頼人のあずささんに執着するストーカーは、
港に追い詰められ、最後の足掻きとばかりに
あずささんに飛び掛って海へダイブしようとしたのだ。

そして、それを阻止しようとしたあたしが代わりに海に落ちた。
もちろん、リョウがストーカーを始末してからあたしを
引き上げてはくれたけど、寒空での事。
結果として、こうして風邪を引く事に。

しかもしかも、海から引き上げられた後にはこっぴどく
リョウに怒られた。
『全く無茶するなよな!!あんなストーカー俺一人で
どうにかなるってぇのに、飛び出してくんな!わかったか!?』
そこまで怒らなくてもと、思う。
確かに、リョウ一人で何とかなるとは思ってたわよ?
でも、身体が動いてしまっていたのだ。
あずささんには、あたしのほうが距離が近かったし・・・

「ごほっごほっ!ックッシュン!」
でも、ここまで風邪こじらせるってわかってたら、
リョウの言う通り無茶しなきゃ良かったかも。
っていっても、あの時はそんな事頭になかったもんなぁ・・・
今頃、美樹さん達楽しんでるだろうなぁ。
リョウ、かすみちゃんとかにまた抱きついてたりして・・・それ、イヤかも。
熱のせいか、鼻がつまっていて酸欠だからなのか、
思考があちこちへと飛んでいた。

本当は、リビングをクリスマスツリーを飾りたかったんだけどなァ・・・
依頼が終わったと思ったら、こうして風邪引いちゃったし。


あれ?そういえば去年まで飾ってたクリスマスツリー
どこにしまったっけ?


そこまで考えた時、去年までリビングを彩っていたツリーが
もうない事を思い出した。
ちょうど去年のクリスマスが終わった頃に
リョウを狙った輩が押し入ってきて、ツリーはみごとに
餌食となって蜂の巣になってしまったのだ。

今年、ツリー買いに行くつもりだったんだけどなぁ。
クリスマスパーティー、みんなでお祝いしたかったなぁ・・・
さっき飲んだ風邪薬が効いてきたのか、
引きずりこまれるような眠気が襲ってくる。

少し、寝たほうが治り早いよね。
額に乗っているタオルはすでに生温かったけど、ダルすぎて
代える気にもならなくて、そのまま布団に頭まですっぽり
潜り込んだ。


夢を、見た。
なぜか海坊主さんは大きなトンボに乗っていて、
あたしとリョウはこれまた大きなカラスに乗っていた。
なぜか楽しくて、あたしはフワフワした気持ちで
笑っていた。
途中で額に冷たい感覚があったけど、
それさえも不思議に思わず夢の中を彷徨っていた。

・・・喉、渇いたな。
たっぷりと浅い眠りの中でいろいろな夢を見た後、
あたしは喉の渇きに目が覚めた。
時計を見ると、すでに0時を回っている。

リョウ、まだ帰ってないのかな・・・?
暗い廊下は風邪を引いている身体には寒くて、
なんとなく心細くなってくる。
足元から上がってくる冷気に、羽織ったショールの
前をぎゅっとかき合せた。

「・・・あれ?」
たぶん真っ暗だろうと思ったリビングには、明かりが灯っていた。
なんとなく、ほっとする。
てっきりクリスマスパーティーの後、
どこかにそのままはしご酒に行っちゃったかと思ってたのに。

「リョウ?」
ゆっくりと扉を開けてそっと覗いたリビングに、
リョウは居なかった。

代わりにあたしを迎えたのは、大きなツリー。
「・・・なんで?」
「なんだぁ?お前起きてきたのか?」
「ひゃっ!ごほっ!ごほっ!!・・・驚かさないでよね!」
「あ〜ん?」
「だから!気配消して背後に・・・ !!! ・・・////」

いつものように、背後に急に現れた気配に
苦情を言おうと振り返ると、そこには頭をガシガシと
タオルで拭きながらの上半身裸のリョウの姿。
「なんだ?背後に、なんだって?」
「っ!なんでもない!そんなカッコじゃ風邪引くから!」
その姿につい顔が赤らんだあたしを、ニヤニヤと笑いながら
覗き込んでくるリョウを押しのけて、リビングに入る。

「・・・っていうか、このツリーどうしたの?」
去年駄目になっちゃったツリーとも全然違う、
アンティーク風のオーナメントが飾られた
ゴールドを基調にしたツリー。

視線を逸らしたのは、今度はリョウの方だった。
「あ〜・・・どーしたんだろぉなぁ?リョウちゃんわかんねぇなぁ・・・」
「あたしは寝込んでたんだから、あんた以外いないでしょ?」
「そ〜いえば、リョウちゃん酔っ払ってなんか持ってきたようなぁ〜」
「またぁ!?全く、気をつけてよね?」
「へぇへぇ」

・・・リョウ?気付いてないと思う?
最近は、リョウみたいにゾウやらカエルやらおじさんやらを
酔っ払って連れてっちゃう人への対策として、鎖とかでちゃんと
繋がれてるんだよ?
こんなきれいなツリーなら、なおさら。

それに、オーナメントはただ枝に軽く引っ掛かってるだけ。
そんな状態のツリーをそのまま持ってきちゃったら、
こんなにオーナメントがある訳ないじゃない。

おとぼけサンタに便乗して、あたしも知らん振り。
全く、素直じゃないんだから・・・ってあたしも、か(笑)

「・・・ね、リョウ。せっかくだから、電気消してライトつけてみない?」
「あー?めんどくせぇなぁ」
「コーヒー淹れてあげるから。ね?・・・ックシュン!」
「まだ風邪治ってねぇんじゃねぇの?・・・しょーがねぇなぁ、少しだけだぞ。
俺がコーヒー淹れてやるから、もっとなんか着込んで来い。
まるまると雪だるまになるくらいにな」
「雪だるまってなによ!?リョウだって、なんか着たら?」
「ん〜?香ちゃん、目のやり場に困っちゃうし〜?(笑)」
「そんなんじゃありません〜!あ、でもバカは風邪引かないっていうし、ねぇ?」

みんなでお祝いはできなかったけど、
素直じゃないあたし達にぴったりのクリスマスにMerry Christmas!


《あとがき》
お待たせいたしました。SORAさんのリクエストは『フリー』だったので、
自由に楽しく書かせていただきました♪
えっと、カオリンの見た夢はアニメのオープニングの一部です(笑)
すみません、季節が後追いになってしまって、
年の瀬にクリスマスですが(^^;)
楽しんでいただけると、嬉しいのですが(ドキドキ)


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