HANA



今日の飲み会は、様々な思惑が入り乱れたものであった。

参加者は海坊主と美樹、そしてかずえとミック、
そしてこのアパートの住人であるリョウと香。

表立っては、美樹がこの会を冴羽アパートで開こうと
提案した事になっているが、実際の発起人は
ミックとかずえであった。

今回の真の目的は、薬の効きめを測定する事なのである。
事の発端は、かずえが『素直になる薬』なるものを
研究の過程でたまたま作り出した事から始まる。
ようは、自白剤である。
狙って作ったものではなかったが、
できてしまったからには研究者の血が騒いだ。
かずえは、まずミックを被験者として効き目を
検証しようと試みた。

しかし、正直にミックに打ち明けたところ猛抵抗にあい、
素直じゃない人間に与えないと効果がわからないと
切々と訴えられた事によりターゲットは変更。
次にあがった被験者はリョウであった。

さて、野生の勘が鋭いこのターゲットに、
いかにして薬を飲ますかが次の課題となる。

そこで、ミックは常套手段ではあるがパーティーを開いて
お酒に混ぜる事を提案。
だが、問題はリョウと香相手にミックとかずえ二人では
気をそらしづらく、気づかれてしまう可能性が高い。

それを打破する為、ミックは伊集院夫妻に話を持ちかけた。
海坊主は『ふん、全くくだらん!』と最初乗り気ではなかったが、
美樹の興味を引く事に成功し、香を悲しませない事を条件に
主催者役を買って出てもらえた。
彼女も、煮え切らない二人の関係に気を揉んでいたのだ。


そして、今に至る。
総勢6名の、冴羽アパートでの飲み会。
美樹と海坊主は、香の相手。
ミックは、先程からリョウを刺激するような話題を振りつづけていた。
かずえは、その横で話を聞きながら、
リョウに薬入りのお酒を渡すタイミングを計る。

香とリョウを除く4人の意識は、水面下でリョウにすべて
向かっていた。

さっきから、リョウの顔は苦虫を噛み潰したかのように
ずっと渋いままだ。
ミックが振る話題振る話題、すべてが彼の神経を逆撫でる。

今の話題は、昨日香に無謀にも両手いっぱいの真っ赤な薔薇
の花束と共に告白した男の話だった。

シティハンターの存在も知らず、ただ道ですれ違った
香に一目惚れし、毎日伝言板へと決まった時間にその道を
通る香を見かけるたびに恋心を募らせ、駄目でもともとと
告白してきた。

「いやぁ〜、それにしても昨日のアプローチの仕方は、無謀だったが
すがすがしいほど真っ向勝負だったよなぁ」
「あ〜ん?んな事あったのか?」
リョウがそらっとぼけた返事を返す。
右手に持ったウィスキーを持つ手が一瞬ピクリと動いたが、
他には動揺を見せずにウィスキーをゆっくりと飲み干す。

香びいきの情報屋達が、リョウの耳に入れないはずがない。
結末は、もちろん香が受け入れるわけもなく玉砕。

「まぁったく、物好きもいるもんだ」
「お前さぁ、そんなにカオリをほうってばかりいると、
どこの誰かわからない奴にそのうち盗られちまうぞ?」
あまりの物言いに、計画とは関係なく心から呆れて
ミックは溜息をついた。

「盗られるもなにも、関係ねェしぃ〜?」
「ったく、お前ってヤツは相変わらず素直じゃねぇなぁ・・・
そうだ、お前も花をカオリにプレゼントするってのはどうだ?
うんグッドアィディア!そうだ、そうしろ」
自分の考えにご満悦なミックは、大きく頷く。
計画うんぬんより、地である。

「だ!?誰が花なんて何の為に贈るってんだ?!」
少々慌てて腰を浮かせるリョウに、さらにミックのにやにやは
大きくなる。
「もちろん、お前が、お前には勿体無いほどチャーミングなカオリに♪」
「ふ、ふん!全く馬鹿らしい」
お酒のピッチがあがり、リョウのグラスが空いた。

すかさず、かずえが新しいグラスをリョウへと差し出す。
例の薬入りである。
「冴羽さん、はいお代わり♪」
「お、かずえちゃんサンキュー。やっぱりパートナーは
君みたいに気のつく人がいいな〜♪」
全く警戒なくリョウはかずえからグラスを受け取ると、
にへらと相好を崩しながら口をつけた。

一気に集中する一同の視線。
ゴクリ。
喉に流し込まれる様子が、スローモーションになったかのように
策謀者達には思えた。

「な、なんだ〜?みんな急に注目して〜・・・ヒックッ」
みんなのあまりの注視を不審に思ったリョウだったが、
時既に遅し。

胃へとお酒が到達したのを感じた途端その目はトロンと
焦点がぼやけ、泥酔状態のように身体は弛緩して
ソファに預けられた。

どうやら、薬が効果を発揮したようである。
「お前、たまにはカオリに花のプレゼントしろよ。
喜んでくれるぞ〜♪」
「・・・ハナァ〜?」
「そ、花だよ。花。真っ赤な薔薇なんてどーだぁ?」
きょとんとしている香を除き、皆少々呂律の回らない
リョウの言葉に耳がダンボとなる。

まずは薬が効いたかどうか確認する事が必要だと、
ミックは話を続けた。
「・・・ハナのプレゼントならいつも、やってるぞ?」
焦点の合わないままのリョウが、心底不思議そうに答える。
「お前が?嘘を言うな!お前が花を購入したかどうかなんて、
新宿界隈にネットワークを持っている俺が知らねぇ訳ないだろ」
『効いてないのか?』
心配になったミックはかずえをうかがったが、視線でかずえは
効いていると答えてくる。

「俺の場合は、あそこにハナ咲かせてるからいいいんだって〜♪」
リョウはそう言うと、あいかわらず焦点が合わないまま
ゆっくりと指差した。
「咲かす?お前ガーデニングの趣味なんて・・・」

指差す先にいぶかしげにみんな視線を移すと、そこには香の姿。
「え?な、なに?!」
視線が集まった事を感じた瞬間、香は襟元を両手で隠した。


だが、ミック達は見てしまった。
そのいつもより襟回りが詰まっている服の合間から見えた
赤い華を。
俺のものだという、リョウの刻印。

「オーマイガー!!(涙)」
「あら!」
「そういう事だったのね。薬は効果あったみたいね・・・
「/////」
おのおのの、反応をする面々。

「・・・ん?あ゛〜!!!!お前等、なんか盛りやがったなぁ!!!
出てけぇぇぇ!!!////」

急に正気に戻ったリョウにより、4人はアパートから
放り出されるように締め出された。
『リョウのバカぁ!!』
『んな事言っても!あいつらが・・・』
中では、怒鳴りあっている二人の会話が漏れ聞こえてくる。

「ああ、やってられないぜ〜(涙)」
「面白いものを見せてもらったわ♪」
「ふん!くだらん!猫も食わんな////」
「今度はもう少し効果長くしないと使えないわね・・・」
様々なつぶやきが、秋の夜風と共に新宿の街を流れていった。


しばらく、二人が新宿の街から姿を消したのは
いうまでもない。


FIN


《あとがき》
お待たせいたしました。愛♪さんのリクエスト『リョウが嫉妬して
思わずみんなの前で関係が進んだことをばらしてしまう』
です。
うちには珍しく一歩進んだ二人です(笑)
リョウがあまりに素直になってくれそうもなかったので、
薬を盛ってみましたv
あれ、その時点で嫉妬になってるのかな・・・(^^;)
と、とりあえず嫉妬してて薬も手伝ったから言ったという事で(汗)
あと、3人称にチャレンジしてみました♪
大人数だったので、このほうがいいかなぁと思いまして。
愛♪さんのお口にあうといいのですが・・・(ドキドキ)
このたびはリクエストありがとうございました(^0^)

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